剣道面の手入れ方法
剣道防具専門クリーニング 武蔵坊「剣洗」の露木 幹也社長にお話をお伺いするシリーズの第6回目です。
前回、剣道小手の手入れの仕方についてお伺いしましたが、今回は引き続き面の手入れ法を教えていただきました。
面はどうやって洗う?
露木「手刺しのほうでいいのかしら?」
──あ~すごい柔らかいです。
露木「柔らかいでしょ?」
──握りやすそうです。
露木「握りやすいですね。こっちはまださっき全然いじっていないんで固いんですよ、振ってみるとわかりますけど」
──あ、そうですね。
露木「こっちはね。さっき話ながらいじってたから」
──全然違いますね。
露木「全然違うんですよ」
露木「これはちょっとここ塗っちゃったんでカシューの匂いがするかもしれないですけど」
──染めもなさったんですか?
露木「そうですね。染めてますね。
面の汚れているところって、たいがいもう顎。気になるところは顎」
──そうですね、顎と…
露木「顎と内側です。おでこはあんまり汚れていないです。
さっきと同じく中性石けんでシュシュシュッとやってあげて、内側もシュシュシュッとしてから、一分ぐらい放置します。今度は、ちょっと大きめのところにジャボンと浸けます」
──浴槽とかでもいいですか?
露木「浴槽とかでもいいです。でも、お風呂の残り湯はダメです。剣道やって汗かいたのと一緒のものだから」
──新たに水を入れてあげるのですね。
露木「そうですね。あと、温度も大事。小手もそうなんですけど、熱いと革が傷んじゃうんで。30~35度くらいですね。要は体温ぐらいまでなら同じ状況なので許せるかな。34,5度。ご家庭で洗うなら34,5度で。ジュブジュブとつけると泡が浮いてくるので。空気が。
できればここの面縁の際くらいのところで、水がつくのをおさえてあげる。若干つくのは問題ないんですけど」
──面金とかはつけないほうがいいんですか?
露木「面金自体はいいんですけどね、面縁のところが…」
──ここの辺り?
露木「そうですね。ここの朱塗りと黒塗りの部分が剥げてくると、素の革が出てきて、そこから水をバンバン吸い込むんですよ。そうすると、ふやけ過ぎちゃうんですよね。で、すごく革にダメージを与えてしまいます」
──なるほど。
露木「きれいに塗ってある場合は、若干かぶっても問題ないんですけども、極力この面縁はご家庭で洗う場合は濡らさない方がいいかな」
──この縫い目の手前くらいまでですか?
露木「そうですね」
──ははあ。難しいですね。ここまでというのは。
露木「ここまでね。でも、かぶっても短時間なので大丈夫です。面を作る時は、革をすごく水で濡らして柔らかくなったところで形をがーっと決めていく作業だと思うので、これを長時間つけると、それの逆のことをやってしまうことになって、それが開いてきてしまいます」
──1分くらい浸けますか?
露木「5分くらい。気泡が止まったら中まで水が浸透しているので」
──それがだいたい5分くらい?
露木「5分くらいですね。5分くらいで、プクプクいうのが止まってきたら、今度は先ほどと同じように柔らかいスポンジで泡立ててあげて、外は軽くなでるくらいで、中は汚れたところをきれいに洗います。耳とかの辺りの皮脂が入り込んでしまっているところはタワシを使っても内側はいいかもしれないですけどね」
──ああ、そうなんですね。
露木「タワシとかスポンジとかでぐーっと洗ってあげます。それで結構きれいになると思いますね。それが終わったら、こんどはすすぎ。すすぎはジャンジャンと。外側もジャンジャンすすぐんですけど、汗がいっぱいついているのは、頬の部分と顎の部分なので、ここはもうジャンジャンすすぎます」
──どういう感じですすぐのですか?
露木「もうジャーという感じ」
──シャワーですか?
露木「シャワーがいいですよね。シャワーでジャーと流していきます」
──内側からですか?
露木「内側からジャーと流します」
──そういう時は面縁とか濡れてしまってもいいですか?
露木「大丈夫です。浸かっているわけではないので」
──流れていくものには大丈夫なんですね。程度問題ってことですね?
露木「そうなんです。長時間面縁を水に浸けるのが怖いです。すごく柔らかくなってしまうんですよね。塗ってあればいいんですけど、剥げているところは、そこからすごくふやけてしまうので、ダメージが心配ですよね。濡れてもちょっとくらいなら全然問題ないんですけども、浸けておくことがね」
──浸かりすぎが問題でしょうか?
露木「そう、面縁に関してはね。ジャンジャンすすいで、できればこういう内側もすすぎます。内側もジャンジャンすすいであげないとダメです。上からばかりすすいでいると、今度は流れきらなくて取れなかったものが内側にたまるので。なので、内側もきれいにすすいであげると、臭いも結構きれいに取れます」
露木「汗をかいて一番汚れがたまっていくのが、この顎からのこの部分なんですよね。この部分に一番汗が染み込んでいるというか」
──面は小手と同じように、リンスとかしなくていいのでしょうか?
露木「あ、やってもいいと思いますね。しっとりしますね。この革の部分のダメージも、保湿してくれた方が柔らかくなるので」
面の脱水・乾燥 注意点
露木「脱水いきましょうか」
露木「面もできれば脱水した方が」
──洗濯機の脱水ということですか?
露木「洗濯機の脱水だけ。だけど、面が入らない洗濯機だと、このまま干していただくことになるので、乾くのに2日半くらいかな」
──それこそ、扇風機干しくらいがいいですかね?
露木「そうですね。脱水については、ドラム式はだめで、縦型であれば同じく1分くらい回します。タオルでくるんで、洗濯槽の中に隙間があったら隙間にも全部タオルとかこういうスポンジとかをがーっと入れていって、面が動かないように、型が崩れないようにしてあげて1分脱水。
露木「たまに、洗濯機の中で面がガラガラ回っているのをyoutubeとかで見ると、「おおー大丈夫かなあ」と」
──それこそ、まわりにバスタオルなどを詰めて?
露木「そうそう。詰めて固定して。それで、自分の好きな面型に固定して。1分以内で脱液してあげると、小手と同じようにかなり早く乾きます。面だったら1日半かな」
──洗濯機で1分間脱水するイメージがまだついていないんですけど、バスタオルでくるむだけですか?中にも入れた方がいいですか?
露木「くるんで。はい。中にも入れた方がいいです」
──じゃあ。中にバスタオルを詰めて、周りをバスタオルでくるむ感じ?
露木「バスタオルで巻きます」
──じゃあ、バスタオル2、3枚くらいですか?
露木「そうですね。あと隙間にも結構入れてあげます。バランス取るためだったり、無用に広がらないためだったり」
──洗濯機の脱水をするのとしないのとでは、1日くらい違いますか?
露木「違いますね。1日くらい乾きが違います。ただ、塩分とか汗の成分とか皮脂とかが落ちているので、乾きは稽古の後より早いです、びしょびしょでも」
──へええ、そうですか。
露木「そう。私が経験あるのは、合宿とかやってて、びしょびしょの干すじゃないですか。で、次の稽古でも濡れてるじゃないですか」
──濡れてます濡れてます。
露木「でも、洗うと、次の稽古の時には乾いちゃってるんですよ、意外と」
──なるほど。
露木「それは塩分とかがあって」
──皮脂とか。乾きにくくなってるということですか?
露木「そう。塩分は水分を抱きたがってるんですよね。だから、発散しない。そういうのを取ってあげて、水だけだとどんどん蒸発するんだけど、塩分が邪魔して、水分を逆に抱こうとしているので、乾きが悪いのです」
──へえ。
露木「だから、洗ってしまって、脱水して干した方が早く乾きます。稽古着とかね」
──風の当て方とか特にないですか?
露木「ああ。さすがですね。こちら側から当ててあげます」
──内に向けてですか?
露木「そう。内側に向けてです。特に顎方面に向けて当ててあげると、風が流れていくので」
露木「顎とおでこが一番厚い綿なので、そこにばーっと当ててあげる感じだと風が流れていって乾いてしまいます」
露木「S字かんで吊すのが一番です」
──あそこに吊してあるような。
露木「そうですね。ああいう感じに吊してあげます」
──洗う時は、この辺のものは外してあげた方がいいですか?
露木「一緒に洗いますね。一緒でも全然問題ない」
──面紐も?
露木「面紐も結構汗が染みているので、一緒に洗ってあげてもいいのかなと」
──面紐を洗う時はだいたい考え方は同じですか?
露木「同じですね。あまり汚れてはいないので、水でどんどん流してあげる。それが一番色が落ちないのではないかなと思いますね。こするよりは。
さっき言ったとおり、裏からするとここに一番汚れがたまりやすい。
表側には、ここに閂というのがあるのですけども、これが一番傷むというか、ここに汗が吸収されて」
──切れる方がいらっしゃるって聞いたことがあります。
露木「結構切れるんですよね。今の季節、この花粉が出てくる季節が一番乾燥していて、かぴかぴに何回も濡れては乾き濡れては乾きで、結構傷んでいるんですよ。で、急激に水をバンと含むと膨張するので、自然にパツンと切れてしまう。
で、これから稽古やって大量に汗をかくと、この閂が稽古やっている途中にパツンと切れたり」
──へええ。
実験は息子の古い面で
露木「かなり年季入ってるでしょ」
──あ、これ、閂が切れてしまっています。
露木「そう。切れてます。閂はちょっと上からもきているので、これは防具屋さんに留めてもらうといいかもしれないですね」
──これはどれくらい前のですか?尚武道さんのですね。
露木「これはうちの息子のものなので、14,5年前。
──かなり打たれまくってますね。練習用で使っていたんですね」
露木「練習用でずっと使ってたんでね。
これはもう実験用で。実験用というか使えるんですけどね、閂さえ防具屋さんで留めてもらえば」
──この辺とかは?
露木「この辺は危険ですね」
──これって、また組み直すんですか?
露木「いや、もう一回使うときは、この上の革だけよく当ててくれる防具屋さんはありますよね。
これは実験用で。でも形崩れないですよね、あんまりね」
──いい形ですよね。
露木「いい形。中学生とかが好きそうな感じですね」
面のお手入れも意外と簡単
今回は、面の手入れ方法について解説いただきました。
解説動画はこちら→ https://www.youtube.com/watch?v=l4HwKDj6B-g
金属や革がついている面は、どうやって洗うのか?自分で洗えるものなのか?と思っていましたが、面縁を長時間水に浸けないようにすることに気をつけさえすれば、案外簡単に洗えることがわかりました。また、タオルでくるめば、洗濯機で脱水することができるとは、驚きです。
次回は、面縁の修繕の仕方について、引き続き解説していただこうと思っています。どうぞお楽しみに!
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