大ヒットした『ドラゴン桜』や『砂の栄冠』、さらには現在好評連載中の『アルキメデスの大戦』の作者である三田紀房先生。明治大学 体育会剣道部出身であることは実はあまり知られていません。さらに、剣道ブームを巻き起こした『六三四の剣』の作者である村上もとか先生との交流も。三田先生が漫画家になるまでのご経歴や剣道歴、などについてお聞きしました。
プロフィール
三田 紀房(みた・のりふさ)
明治大学政治経済学部を卒業後、西武百貨店に入社。家業の衣料品店を兄とともに引き継ぐ。経営不振と多額の負債で資金繰りに苦しむ中、漫画雑誌の新人賞の募集を見て、賞金を得るために応募・入賞。『クロカン』『ドラゴン桜』『マネーの拳』『砂の栄冠』など数々のヒット作を生み出す。『個性を捨てろ! 型にはまれ!』『汗をかかずにトップを奪え!』などビジネス書の執筆も行う。
「モーニング」「週刊Dモーニング」では“投資”をテーマにした『インベスターZ』も連載(2017年6月完結)。現在「ヤングマガジン」にて『アルキメデスの大戦』を連載中。
『六三四の剣』と三田紀房先生
―『六三四の剣』を村上先生が描かれる際に、三田先生からお話を伺って構想を練ったと聞きました。どういったお話をされたのでしょうか?
僕が先生に初めてお会いしたのは大学2年生の頃です。村上先生が『エーイ!剣道』を描くにあたり、剣道を実際にやっている人を探したことがきっかけです。
先生の奥さんと僕の義姉は学生時代の同級生で友人だったんです。それで、「うちの義理の弟が明治大学の剣道部にいるわよ」という話になり、村上先生から「ぜひ一度家に遊びに来て剣道について色々お話してくれないか」とご依頼いただきました。
村上先生を尋ねて行ったのですが、剣道について色々お話といっても、当時はまだ学生でしたし…僕の高校の先生や明大の関係者を紹介することにしました。
「これを機会にこれからも遊びにおいでよ」と言っていただき、交流が始まりました。
漫画家になることは、全く考えていなかった
― 漫画家になるというのは目標としてあったのでしょうか?
漫画家になることは全く考えていなかったです。
卒業後に一度就職しましたが、その後は岩手県で家業の衣料品店を手伝っていました。ただ、個人商店だったので経営がかなり厳しかった。漫画で入賞したら賞金がもらえると知って、新人賞に応募しました。
― 完成した漫画の原稿は、村上先生にチェックしていただいたのですか?
プロのご意見を聞きたかったので。最初にお見せして、「面白いよ」と言っていただきました。
剣道をテーマにした『空を斬る』は第一作目の連載です。講談社の担当者から連絡が来て連載することになりました。
岩手の実家で店番しながら描いていたので、当時はかなり大変でした。半年くらいの期間で月1回の連載です。でも良い経験だったと思います。
古い講堂で、たった二人で剣道をしていた
― 三田先生の剣道のご経歴について教えていただけますか?
僕が剣道を始めたのは小学校5年生からですね。ある日、友達と遊んでいたときに、たまたま剣道している場所を見つけたんです。
幼稚園の横に古い講堂みたいなものがありました。パラパラ音がするので見に行ったら、二人で剣道をやってるんですよ。片方が打ち込みしていて。
「なんだろう」と思って見てたら、先生が竹刀持ってきて、「やってごらん」って。ただ見てただけなんだけど(笑)。「毎週来なさい」と、言われるがままに始めました。そしたら今度は、「友達を連れてきなさい」と言われて、いつの間にか剣道教室になっていました。剣道の先生は看護師さんだったんですよ。子供の頃は、とても不思議な空間に感じていました。
練習を続けたら防具を買ってもらい、大会に出ることになりました。それまで試合もしたことなかったんです。ルールもわからない。先鋒、次鋒、中堅……ポジションすらもわからない。並べられて、「行って来い!」と。でもね、意外と勝ち上がって、県で3位になったんです。「本格的にやるぞ」という雰囲気になり、スポーツ少年団の申請を出すことになりました。やり始めたら辞められなくなっちゃって。
― 剣道は中学、高校、大学と続けられたんですよね?
中学でも剣道を続けて、地区で優勝したりしていました。
僕の地元は田舎なので、公立高校って1つしかないんですよ。そこは伝統校で、剣道に力をいれていました。中学校の練習にその公立高校の先生がいらして「君はうちの高校に来るよね、待ってるから」と、外堀を埋められました。
高校も剣道漬けでしたので卒業した時に、「剣道はもうまっぴらごめん」と思っていました。やっと東京に出てきて、剣道から開放されたんだし、キャンパスライフをエンジョイしようと。
大学に入学してからは、やることもないし、元気がありませんでした(笑)。僕は基本的に面倒くさがり屋で、新しいことにチャレンジしないタイプなんです。ぼんやりした性格というか。大学に馴染めないので、どこかのグループに入りたかったんですよね。でも、テニスやスキーは合わなくて。やるとなったら剣道かなと。
明治大学での稽古
― 大学でまた剣道部に入って楽しいことはありましたか?
楽しいことはないですね。毎日嫌で嫌で(笑)。稽古は厳しいし、辛いし。
― 明治大学の剣道部は、強豪ですよね。
入って、「あ!失敗した!」って思いました。周りも有名選手ばかりで。でも、後ろの方ででも、ちょこまかしてたらなんとかなるかなって(笑)。
東京の大学に来たものの、どこにも属することができなくて、馴染めなくて……。中高の頃から馴染んでいた剣道の雰囲気が一番落ち着いて安心するんです。学生服も楽です。着るものを考えなくていいし。
剣道がなかったら、自分の実体がつかめなかったかもしれない
― 剣道から学んだことは、いまお仕事や生活でどんな風に活きていますか?
自分の中に規律が生まれました。生活のリズムを刻むベースができたと思います。
僕は昔から、「何が好き」とかはっきり答えられなかったんです。みんな、子供の頃なにか集めたり熱中することがあるじゃないですか。それも一切なかったんですよ。ほんとにぼんやりした子どもでした。好きなもの、趣味、将来の夢を聞かれると辛くてね。夢なんて全くなんにもなくて、何になりたいとか本当に何もありませんでした。だから、剣道をやらなかったら、ずっとぼんやりしていたと思います。自分の実体をつかめない人間になってたと思うんですよね。
高校の剣道部がすごく厳しかったんです。言葉遣いや挨拶、先輩の防具干し方まで、何から何まで細かく決まっていました。毎日、練習が終わってから正座させられて、「ここがダメだ」とか「干し方がダメだ」って怒られて……。毎日、手順を間違わないようにとプレッシャーでした。
でも、これって一種の”慣れ”だと思うんです。一つ”慣れ”の壁を抜けると、あとは自然に身体が動きます。そして高校であんなに嫌だったのに、大学に行ったらまた厳しい決まり事がたくさんあるんですよ。靴を揃えたときの靴紐の位置とかですね。それを一つ一つこなしていく。こなしていくことで、また自分の中でリズムというか、ルーティンが出来ていきます。これは、今の自分にとても活きていると感じます。例えば、朝起きてから何時から何時までなにやって……といったように、一週間のサイクルがほとんど出来上がっています。作業も決まりごとです。剣道のおかげで、まるで判子でも押したような毎日を過ごすせるというか。
ぼんやりした、何にも熱中できなかった自分が、キチンと行動できるようになったんです。剣道部でキチキチやりなさいって上から無理やり言われたのが、僕にとってはすごく良かったです。
型にはまることでリズム感が生まれる
― 先生の作品のなかにある”型にはまった人間”ですね。
型にはまる機会を作ってくれたのが剣道ですね。型にはまるって一見なんのオリジナリティもないような気がしますけど、はまったことをキチンこなすことで、自分のなかでリズム感ができました。
最初は怒られますけど、やっているうちに覚えるじゃないですか。覚えればあとは文句を言われなくなるので。何度も何度もトレーニングして、型にはめてもらったことが自分にとって良かったと感じます。
『ドラゴン桜』三田紀房 / 講談社
東大受験をテーマにした『ドラゴン桜』
個性よりも型にはまることを提言している
『ドラゴン桜』三田紀房 / 講談社
ゆとり教育がもてはやされた時代に
あえて「つめ込みこそ真の教育である」と言い放つ数学教師
とにかく動くほうが良いこともある
―『クロカン』の中で、「バカになれ」というセリフがありますが、剣道でいう「無心」や「一本にかける」という考え方に近いように感じます。
ものを考えて動くよりは、考えずにスパスパ動くほうがかえって正確になる。「なんでこれをやるんだろう」って考えたら動けないことがあります。そういう時は、とにかく動いたほうがいい。「自分を捨ててチャレンジしてみよう」と、そういうつもりで書きました。
剣道も考えてたら動けないと思うんです。反射の勝負だから。
技の稽古って大学に入ったらあまりやらないけど、高校までみっちりやらされるじゃないですか。僕の高校では、先生が基本練習を全部表にして、黒板にレシピをバーっと書いていました。それを一時間くらい何度も何度もずっと練習するんです。
試合では、いちいち考えて打つことはなくて、自分で練習したパターンしか出ないんですよね。短い試合時間の中で、出せる技も3つか4つくらいしか無いです。特に僕らのころは審判の「わかれ」がなかったので……考えてやってたら遅くなってしまうんです。
反射的に動けるように練習することが大事だと思います。
中編、後編に続きます。
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取材:上島郷、工藤優介
写真:小林里奈
文:佐藤まり子
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【特典】直筆サイン入り『インベスターZ』全巻セット
創立130年の超進学校・道塾学園に、トップで合格した主人公の財前孝史。財前は入学翌日に、学費無料の道塾学園の秘密を知ることになる。各学年成績トップ6人のみが参加する「投資部」が資産を運用し、学園の運営費用を生み出していた―。投資を通して主人公が成長していく様子を描く異色の青春投資漫画。読むことで投資の知識も身につく参考書のような作品。金投資と剣道に通じる勝利の秘訣について語られるシーンも!
インタビューに登場した三田先生の作品
物語は、「スポーツが”努力と根性”から”明るく楽しく”と看板をかけかえてから、精神論はこの世から葬りさられもう二度と日の目を見ることはないと思いきや……」という語りかけから始まる。主人公は、進学のために「体育会剣道部に入る」という条件で大学に進学した高山慎一。想像を絶する厳しい稽古、無敵の先輩、鬼のOB……大学剣道部での稽古を通して高山が成長していく様子を描いた作品。剣道部出身者であれば共感するシーンや言葉が多いはず。
「東大は簡単だ!」の強烈なキャッチコピーで社会現象を巻き起こした三田先生の代表作。「ゆとり教育」を推し進めていた時代に、あえて「本当に個性は必要か?」と問いかけた。作中で数学の先生が”詰め込みこそ真の教育である”と言い放つシーンはゆとり教育への真っ向からの対立意見。受験をテーマにしているが、物事の本質についても考えさせられる。これから受験勉強をする学生にも、学び続けたい社会人にもお勧め。
監督を主人公にした型破りな高校野球漫画。クロカンこと黒木竜次は、監督就任3年目にして桐野高校を県内の強豪に押し上げた。しかし、粗暴な言動、定石を破り捨てるような采配、他人の目を意に介さない態度に、周囲からは監督更迭の声があがっていた……。『クロカン』が三田先生の作品のなかで一番好き!という声もあるほど人気の漫画。野球に詳しくなくても惹き込まれる作品。
剣道日本からのお知らせ
“剣道を愛するすべての人に“をテーマとした老舗の剣道雑誌。昭和51年に創刊され、剣道の情報を伝えるメディアとして、多くの方々に愛されています。剣道の入口に立ったばかりの方から、さらに剣道の深奥に踏み入ろうとする人にも応えられる雑誌です。
今回の三田先生のインタビューや「海外”剣”聞録」など、BUSHIZOからも多くの記事を提供中。
インターネットや全国書店で取扱中ですが、おすすめは発売日にお手元に届く定期購読。発売日に読めるだけではなく、最大で5%OFFの特典も。さらに、紙+デジタルの定期購読プランでは、1冊あたり860円で紙版も、デジタル版もご利用いただけます。
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