日本以外にも広がりを見せる剣道。今回は19歳からカナダで剣道を始めたCardinal Maxime(カーディナル・マキシム)さんに剣道を始めたきっかけや、日本とのカルチャーの違いについてインタビューをしました。わたしたち日本人が普段あたりまえに思っていることも、視点を変えると新鮮な発見があります。
(剣道日本9月号掲載 『海外”剣”聞録』第1回)
プロフィール
Cardinal Maxime(カーディナル・マキシム)
カナダのモントリオール出身。19歳から剣道を始め、現在四段。楽天㈱でエンジニアとして働く。楽天剣道部創設者。
剣道歴
マギル大学 剣道部所属
国際武道大学に1年間留学。剣道部所属
小牛田農林高校 剣道部に2ヶ月剣道留学
楽天剣道部 所属(剣道部創設)
剣道を始めたきっかけ
―まず、剣道を始めたきっかけについて教えていただけますか?
初めまして、マキシムです。私が剣道をはじめたきっかけは…友達に誘われたから(笑)19歳で剣道をはじめました。
私が住んでいたカナダのモントリオールには、当時4-5つの道場があり、その中の一つマギル大学 剣道部に所属していました。
マギル大学の剣道部は、学生だけではなく一般の方にも道場を開放しています。
私も友達も、マギル大学の学生ではありませんでしたが、道場に入門させていただきました。場所は、自宅から車で20分くらいのところです。
※カナダの剣友たちとの写真。右下の青胴がマキシムさん
私はもともと武道に興味があって、合気道も習っていた時期があります。でも、先生・生徒のどちらにも同い年の人がいなくて…。形式が難しいとも感じていたので、続きませんでした。剣道は、「るろうに剣心」を漫画もアニメもみていたので、どういうものかは大体わかっていたつもりです(笑)剣道形のように、形式的で難しいこともあるけど、試合があるし、おもしろいです。
カナダでの稽古
― 同年代の人が多いと楽しいですよね。稽古はどれくらいしていたのですか?
週3回、ほとんど休まず稽古に参加していました。私が防具をつけたのは、剣道を始めてから3ヶ月目くらいですね。
同時期に入門した友達は、20人ほどです。同年代がいると、やっぱり楽しい。
そのうち、4・5人はまだ剣道を続けていて、五段に受かった人もいれば、世界大会の選手に選ばれたTuan Anh Hoangくんもいます。彼とは、親友です。
カナダは日本ほど剣道が盛んではないので、先生はとにかく「続けて欲しい」と願っていたようです。マギル大学の剣道は「Happy Kendo」。
だから、大学ではたくさん防具を購入して、3級に合格したらすぐに防具をつけることが許されていました。日本では考えられないのではないでしょうか?(笑)
とにかく「楽しむ」ことを大切にしていました。防具を早くつけさせてあげたいという想いもあったでしょうし…。
海外での道場は人が少ないから、一人でも続けて欲しいという願いがあったんだと思います。続けてくれないことには、道場を存続することすらできませんので。
ただ、「楽しい」だけではなく、辛い稽古もあります。かかり稽古もたくさんしましたよ。
恩師は元フェンシングのフランス代表
― 楽しむ気持ちを大切にするって素敵ですね。先生はどんな方だったのですか?
カナダでの私の恩師は、フランス人の七段の先生です。先生は、もともとフェンシングのフランス代表選手だったのですが、35歳のときに剣道を始めました。ちなみに奥さんは日本人ですよ。モントリオールにはもう40年以上も住んでて、現在はカナダの剣道連盟の会長です。先生の突きは、本当にかっこいいです!
あとは、日本から留学にくる大学生も私達の大切な先生でした。わたしは、日本人の先輩によく剣道を教えてもらいましたし、韓国人にも、とてもお世話になってました。
※マキシムさんの恩師
日本とカナダ、カルチャーの違い
―“部活”というカルチャーは日本独特のもののような気がします。日本の大学や高校に留学していたそうですが、日本とカナダでカルチャーの違いを感じましたか?
カナダには部活というものはありません。また、日本の先輩・後輩関係もないので最初は驚きました。
たった1歳離れているだけで「先輩」というのは私達にはない感覚です。特に国際武道大学の上下関係の厳しさにはカルチャーショックを受けました。
―剣道を10年以上続けている現在でも、上下関係については理解できない部分がありますか?
そうですね、最近はそんなことはありません。
色々な剣道の場を見てきましたが、中には先輩が後輩をいじめる、コミュニティに新たに入ってきた大人や外国人を無視する、という悲しい場面も目撃しました。
本来、上下関係というものは、「先輩が年下の後輩を思い遣り、助ける」「後輩が先輩にもらった恩を返すために礼を尽くす」という、大変良く出来たシステムだと思います。
また、相手を思い遣る気持ちが自分の内から起こる素直な気持ちだったら、なお良いのではないでしょうか。
無理をしていると、いびつな上下関係になってしまう気がします。例えば、いじめが起こってしまったり。それはとても残念なことだと思います。
また、上下関係とは関係ありませんが、剣道が好きではないのに続けている方もいて…どうしてなんだろうと不思議です。
ちなみにカナダは、上下関係がなく「皆が友達」「先生は先生」でしたね。先輩が後輩の面倒を見る慣習はありませんでした。
外国人剣士から見た剣道の魅力とは
―マキシムさんは剣道のどんなところが好きですか?
剣道の好きなところは、思い切り身体を動かせること。あとは、一瞬で勝負が決まるところですね。スピード感があって楽しいです。
思い切り面を打つ「捨て身」という概念が特に好きです。すごく気持ちが良い。
また、剣道はお互いに言葉がわからなくても、剣道ができればどういう人か分かるような気がします。剣道は嘘を付きません。そして、ずっと続けられるのは大きな魅力です。
外国人だからではなく、誰が見ても”良い剣道”をしたい
―今後、こんな剣道を目指したい、こんなチームを作りたいなどありますか?
誰が見ても「いい剣道だね」って言われることを目指しています。カナダ人だからではなくて、「剣士としていい剣道」と言われたいかな。段位は五段に挑戦中です。
※楽天剣道部のみなさん
楽天剣道部に関しては、いつか実業団で入賞できるくらいのレベルになってほしいと思っています。
※ハロウィンでの仮装
また、社員が初心者からでも剣道を始められるような環境を作っていきたいです。
多くの実業団はすでに剣道経験がある人が多いですが、初心者が何歳からでも始められる環境ができたら素敵だと思います。強い人も、初心者も、楽しい環境があれば自然に人が集まってくるのではないでしょうか。