プロフィール
長谷川化学工業株式会社 代表取締役会長 長谷川 一 氏 代表取締役社長 長谷川 壽一 氏変革に重きをおく、経営哲学
—創業背景を教えていただけますか。 会長「スキーの滑走面材料製造から出発しました。どんなものでも、変革が大事です。同じことを100年やっていても、会社は存在し得ません。新しい分野、新しい製品の開発が必要です」 ー多種多様な商品を開発されています。 会長「早稲田大学の先輩から、安全なシナイを作れというアドバイスがありました。最初は簡単に出来なかったけれど、諦めませんでした。努力した結果出来、その分野へいきました。経営は立ち止まってはいけません」 ー今は調理器具がメイン商品ですか?学校給食や社員食堂で使われている、「ポリエチレン かるがる」
会長「そうですね。この商品も開発に苦労しました。カーボンシナイと同じで木を芯材にしています。理由は変形しない、軽くなるということです。食材別に使い分けを出来るようにしました」 —ピンク色は肉を切る用、というような使い分けができるということですよね? 会長「そうです。このまな板のメリットは3つあって、色分けが出来ること、軽いこと、変形しないことです。これで売り出しましたが、当時は必要性がなく、誰も相手にしてくれませんでした」 ーどのようにして、売れていったのでしょうか? 会長「学校給食でポツポツ売れはじめました。その時にO-157の食中毒事件が起きたんです。それで、厚生労働省も文部科学省も野菜・肉・魚など食材をすべて使い分けをしなさいという指導をしました。すると、学校給食は一斉に買ってくれました」 —その事件が追い風になった。 会長「そうです。包丁も、HASEGAWAのブランドだから売れました。こうして、うちの稼ぎ頭になったわけです。スキーメーカーは33社あったのが、今は2社しかありません。剣道と同じで、子どもの数がどんどん減ってきているんです」 ーまな板は、なくならないですね。 会長「家庭用ではないから、業務用で学校給食・病院・老人ホーム・保育園・レストラン・ホテル・旅館などで利用されます。今や業務用では、我が社がトップになりました」 —どういったところが成功のポイントでしたか? 会長「スキーの滑走面やカーボンシナイをつくっている知見が、存分に活かされています。この商品は、海外でも売上が伸びているんです」 —海外の調理製品展示会に行かれると、『カーボンシナイのHASEGAWAですよね』と言われることも多いそうですね。 会長「何でも創意工夫が大事です。新しいことにチャレンジしていかないといけません。一時は大変でした。千葉県東金市に工場を作り人を雇いましたが、調理製品が中々売れません。メイン事業のスキー製品も売上が減っていました。主力の業績がどんどん落ちて、調理製品は中々売れずコスト負担があるから、経営がピンチに陥ったのです」 ーどのようにして、巻き返したのでしょうか? 会長「かろうじてつぶれる前に、調理製品が伸びてくれました。新しいことにチャレンジする精神を持ち続けなくてはいけません」カーボンシナイをつくろうと思ったワケ
—カーボンシナイをつくろうと思われた理由を教えていただけますか。 会長「先日亡くなられましたが、早稲田大学剣道部で1級上の荒木さんという方に、『子どもでも使える安全な竹刀を作れ』と言われたことがきっかけです。実際に成功したのが、15年後。 いくらやってもだめでした。諦めたり、思い出したりして、やっと出来たわけです」黒い部分がカーボン、真ん中には芯材として木材が入っている
開発で苦労された点
—特に開発で苦労されたことはなんでしょうか? 会長「叩くと折れるところ、後は軽くしなければいけないところですね。折れないようにするために、木を芯に入れカーボンで4面を覆うと丈夫になりました。断面を四角形にしたわけです」 ー衝撃に耐えられる形状にしたのですね。 会長「ところが、シャフトの上にぽんぽんと機械で叩いてテストしたら、50~100回で折れてしまいました。木を芯にしたから50~100回はもったけれど、どうしてもそれ以上はいきません。そこで諦めかけた。 しかし、ふとしたことから木の繊維に着目したのです。ポイントは繊維の向きでした。縦になっている繊維を、すべて横向きにしたのです」芯材の木の繊維を、横向きに変えたことで実用化に近づいた
ーひとつの、ブレイクスルーになったのですね。 会長「繊維の向きを変えただけでへこまない、そして折れません。どうしても越えられなかった機械テスト100~200回の壁が、1000回までもったんです! 結果として1500回でも割れませんでした。これなら大丈夫ということで売り出したわけです」 ーポイントは芯材の繊維の向きだったのですね。 会長「手間とコストがかかりましたが、縦ではなく横に並べました。問題は物打ちの部分です。この工程をシナイ全体にやると、コストがかかり過ぎてしまうし、全体が柔らか過ぎてしまいます」 ーカーボンシナイに似たような製品というのは、存在しないのでしょうか。 会長「カーボンシナイが出来た時は、値段が高いから他社は研究されたと思います。結局折れるという問題をどうしてもカバー出来ないんでしょうね。特許も切れているし、すぐ真似すれば良いのに誰もやりません」 ーお話を聞いただけで、再現するのが難しいことが分かります。 会長「大変な手間がかかり技術力も必要です。技術力のない会社はチャレンジしないし、技術力のある会社は剣道の市場規模(売上)では参入しないのです」 ーコスト面・技術的な問題から、御社だから実用化できた製品だということがわかりました。