高橋健太郎スタイル 剣道のための体づくり
今回も前回に引き続き、剣道日本代表トレーニングコーチ高橋健太郎先生に、剣道に必要なトレーニングとは何かを教えていただきます。第3回目となる今回は、剣道をするのに理想的な体とはどのようなものなのかなどを教えていただきました。
理想的な肉体 寺本将司
──身体的に理想的だと思われるような選手はどなたかいらしたりするのでしょうか?
高橋「現日本代表でですか?」
──過去にいらした選手でも構いません。
高橋「理想的といえば、先ほど名前が出ました寺本選手とかは、非常に理想的だと思います。彼自身としては、そんなにトレーニングをするということはしていないんですよ。自分で何かをするということはほとんどしないのですけれども、大阪府警の練習の中で、トレーニングの時期があったりとか、走る時期があったりとか、あとはかなり負荷がかかるような、筋力を使うような素振りとかを、数をこなしたりとかっていうのが、要はトレーニングになっちゃってるところもあるんですね」
掛かり稽古=インターバルトレーニング
高橋「例えば、掛かり稽古ってありますよね、掛り稽古は、20秒くらいわ~っと出し切って、戻ってきて10秒から15秒こっちで休んでからまたかかっていくというのをずっと繰り返しますよね。これは実はトレーニングでいうインターバルトレーニングといわれているものと、全く同じ要領なんですね。インターバルトレーニングは、全身の持久力をあげることにつながりますので、そこで全身の持久力もある意味普段の稽古でトレーニングされているっていうことがあるんですね。あとは、重い素振り刀を振るとかもですね、普通では考えられないような数を振ったりしますのでね」
高橋「寺本選手の場合は、非常に筋骨隆々という身体ではないですし、でも筋肉自体はすごくしなやかで、収縮するスピードも速いんですね。俗に言ういい筋肉と言われているような筋肉だと思いますね」
──それって鍛えてどうにかなるものなんですか?元々持っている素質なんですか?
高橋「元々持っている素質も大きいかと思いますね。筋肉自体は普通、トップに言っている子たちはみんないいですね。よくマッサージとかストレッチとかかけて触るんですけれども、西村選手とかもものすごく筋肉自体も大きいし、これであの瞬発力が出るんだなあというのが、まさしく分かりますね」
──寺本選手が、さらに素晴らしい、しなやかな筋肉になられたというのは、稽古している中で意識の違いとか、そういうことでしょうか?
高橋「それもあるかと思いますね。例えば、同じ素振りを100回するにしても、どういう意識でするかによっても違うかと思いますし、また、彼の得意な分野というか、例えば、彼は元々瞬発的な力がすごくあったので、それが稽古の中で伸びていったというのもあるかと思いますね。個性がより伸びたというか」
──それこそ、同じ大阪府警で稽古されている木和田選手ご本人にお話を伺ったら、「ちょっといい一般人だった」という風に仰っていて、同じ稽古をされていても筋肉の差が出るのは、筋肉がつきやすい人とつきにくい人というのがいるということですか?
高橋「もちろん、個人差というのは当然ありますし、はい。骨太のミーティングの時に、よく「骨太の選手と強化の選手はこんなに違うんだよ」というのを出して、いつもオチで木和田選手を使います。一般人ですね。ちょっといい一般人という感じです」
──それでも優勝できるんですね。
高橋「はい」
──そこはやっぱり技術なものですか?
高橋「はい。そうですね。剣道は体力的なレベルよりもやはり技術的なレベルというか経験とかそういったものが非常に大きなウエイトを占めていますので、八段の選手に我々が太刀打ちできないというのは、そういうことだと思いますね」
──素質だけの競技ではないという面白さでもあるということですか?
高橋「そうですね。でも、ただ経験だけ積んでいても身体が動かなければ、どんなに強い八段の先生でも、ずっと稽古しなければ、当然力は落ちていくと思いますし、八段の先生が強いのは、先生方が八段になるとだいたい稽古の量が増えるんですよね」
──八段になるとですか?
高橋「はい。だいたい増えますよね。稽古に呼ばれて、ずっと元にも立たなければいけないし、やはり八段という自覚もあって「サボれないな」というのがあって。警察とは違った、一般の社会人の先生とかに、お話を伺う機会があるのですが、稽古の量が増えたというのはよく聞いていますね。トレーニングをしていなくても稽古がトレーニングになっていれば大丈夫だと思うのですけれども、そうでないと、当然体力は落ちてくると思いますね」
──では、稽古回数が体力と比例しているというわけなのですか?
高橋「はい。そうですね。そこがあると思うんですよね。ただ、稽古ができない時に、何をしていたかというと、みんな走ったりとかしてトレーニングしているんですよね」
高橋「たとえば、亀井先生を例にするのもちょっと失礼ですけれども、熊本の亀井先生が八段審査を受ける前に、1年間地方の警察署に行かれることになって、剣道ができる環境ではなかったんですね。本当に週に1回くらい自分の稽古ができればいいという中で、あとは走るとか、自分でできる負荷をかけた素振りとか、そういうことをほとんど毎日のようになさっていたというお話ですよね」
──日々の心がけということですね。
高橋「はい。そうですね。というか、体力を要は落とさない。技術うんぬんというよりも体力を落とさないということをメインになさっていたということですよね」
──剣道の技術はそう簡単には落ちないんですよね?
高橋「そうですね。落ちないですね。剣道は、本当に10年20年続けてきた人たちが急にやめたからといって、なかなか技術というのは落ちないですからね。ただ、どうしても体力が落ちてしまって、「この時に、あ、打とう」と思っても打てなかったりとか、ちょっとやると疲れて息が上がってしまったりとかということが多いと思うんですよね」
──ということは、最初で仰っていた土台というところをしっかりさせたほうがいいということなんですね。
高橋「はい。そうですね」
次回は 自宅でできる体づくり
同じように日本代表としてご活躍されている選手でも、お一人おひとり個性があって、ご自分の得意とするところを伸ばしておられるのだなあと興味深くお話をお伺いしました。八段の先生になると、稽古量が増えるというのには驚きました。また、剣道の技術はそうそう落ちるものではないというところも、剣道の魅力の一つなのだろうな、と実感いたしました。
さて、次回からは、いよいよ『自宅でできる体づくり』として具体的なトレーニング内容を教えていただきます。
どうぞお楽しみに!