高橋健太郎スタイル 剣道のための体づくり
今回も前回に引き続き、剣道日本代表トレーニングコーチ高橋健太郎先生に、剣道に必要なトレーニングとは何かを教えていただきました。第2回目である今回は、日本代表選手の体力はどのくらいなのか、一般の剣道愛好家はどのようなトレーニングをしたらいいのかなどを教えていただきました。
日本代表選手の体力とは
──先生は世界大会に今までずっと帯同されていて、近年で言えば、それこそ寺本先生とか髙鍋先生とか超一流の選手を見られてきていると思うのですけれども、超一流の選手というのは実際のところ、筋力という部分では、他のスポーツの選手と比べていかがですか?
高橋「非常に高いですね。世界大会の前にですね、国立科学スポーツセンターというところに行って、フィジカルチェックとメディカルチェックをするんですけれども、例えば、寺本選手の場合は、心肺能力、全身の持久力が、Jリーグで活躍しているような選手や、オリンピックに出てくるようなサッカー選手の平均値より高かったんですね。なおかつ、アイソキネティックの力、脚のパワー、脚筋力を見ても、Jリーグの選手と比べて非常に高いレベルにあったということは、国立科学スポーツセンターの方も本当に驚かれていましたね」
──それは、逆に言うと、日本一になるためには、そこまでの筋力が必要なんじゃないかという逆説の言い方もあると思うんですけれども。
高橋「そうですね。まあ、そこまでの筋力がやはり必要か必要でないかというと、言ったら必要かな、と。ある程度の筋力は必要かと思うんですね。ただ、全員がそこのレベルであるというわけではないので…ないよりは当然あったほうがいいでしょうし。
木和田選手という選手がいるんですけれども、木和田選手などは、そこのレベルよりもずいぶんと低くなったりもしているんですね。でも、やっぱり彼には彼の特徴があって、相手が打てないところを打つことが出来たり、相手の虚をつくことが出来たりと、筋力がそこまでなくても逆に、いろんなプラスの部分がある選手もいると思うんですね。
ただ一つ言えるのは、骨太の選手と強化の選手の体力レベルを比べてみると、必ず骨太の選手よりも強化の選手のほうが上に行っています」
──平均でも?
高橋「はい、平均値がです」
剣道のために何ができるか
──今のお話で言うと、剣道のパフォーマンスを上げるためのトレーニングというのは結構難しいというか、それで強くなるわけではないけどもという…でも、やっておいたほうがいいというか…
高橋「そうですね、でも、基礎体力として、やはり持久力であるとか、筋力であるとか、柔軟性とかはあった方がいいと思いますので、稽古でつけられる体力ももちろんあるんですけれども、実際にそこが足りないなと思う場合には、自分で何かトレーニングという時間を作ってやるというのが絶対いいと思いますね」
──それでは、竹刀を速く振りたいとか、遠間から遠くに跳びたいから筋トレをするというのは、やり方としては間違いに近いかなという感じですか?
高橋「そうですね。当然結果としてそうなるかもしれないですけど、筋トレでそこをねらうより、稽古の中でそういった技術というのは上げていくのほうがいいかと思いますね」
怪我予防のために鍛える
──選手は、剣道に人生を賭けている方もいるので、時間を取れると思うのですが、実際に剣道愛好家という方たちは週に1回稽古ができればいいほうという方のほうが多いと思うんですけれども、そういう方たちにわざわざ筋トレの時間を取った方がいいよ、という根拠は、先ほど先生が仰った怪我の部分なんでしょうか?
高橋「そうですね。一番大きいのはやはり怪我ですね。怪我をしてしまったら、1週間、次また1週間という感じで、稽古が出来ない期間が延びてしまいますよね。そうすると、筋力もそうなんですけれども、持久力が一番落ちていくんですね。だんだんだんだんと。
ですので、普段週1回しか稽古が出来ないような愛好家達におすすめしているのは、負荷をかなりかける筋トレとかよりも、ウォーキングとか、エレベーターを使わないで階段を使うというような普段からできる心がけですね。そういったことに気をつけてもらえるといいと思いますね」
──日々の心がけの積み重ねということですね?
高橋「そうですね、はい。まあ、続に言うコソ練と言いますけれども。はい」
関東学院大学でのトレーニング
──今、実際に先生が指導されている関東学院大学では、トレーニングというのはどうなさっていますか?
高橋「全体でトレーニングというのは、合宿の時くらいしかやらないんですけれども、個々に、稽古の前とか、稽古が終わった後とかのあいている時間を使って、トレーニングルームでトレーニングをするようには推奨しています」
高橋「あと、怪我をして稽古が出来ない子達は、必ずトレーニングルームに行かせるようにはしています。見ていることも当然重要なことなんですけれども、それよりもやはり身体を動かすというか、例えば腕が痛いんだったら、足は使えるわけなので、バイクをこぐとかですね、逆に足が痛いんだったら上半身は使えるわけですから、そうすると腕でウエイトをやったりとかというように身体を使わせます。要は、筋力とか筋持久力とかですね、全身の持久力とかということを落とさないようにということで、その場で見学するということはなるべくしないで、トレーニングルームで身体を動かしなさい、というのはいつも言ってますね」
理想のトレーニング量
──この動画を見て下さった方が「ぼくもトレーニングに励んでみよう」と思ったときに、どれくらいの量をどれくらいのスパンでやったらベストかなと思われますか?
高橋「ベストを言ってしまうと、やはり毎日。ちょっとでもいいから毎日やったほうがいいですね。ただ、なかなかそういうわけにもいかないと思いますので、まずは週2回とか3回でいいと思うので、そこで10分ですね。ほんと10分でいいと思うので、一日10分を週2回でも3回でも、まあできれば3回くらいというのを、一日おきくらいにやってもらうというのがいいかなと思いますね」
──筋肉を大きくするには休んだほうがいいと言うような話もありますけれど…
高橋「まあ、そうですね、要は48時間とかというようなことが言われていますけれども。まあそこまで追い込んでというのは、愛好家の方の場合はいいかなと思いますね」
──間を開けながら、自分にできる時間でということですね。
高橋「はい」
──筋肉をつけすぎると、剣道にはよくないという話を聞くんですけれども、それは動きづらくなるとかですか?
高橋「どこまで筋肉をつけるかにもよると思うんですけれども、決して筋力がつき過ぎたから、そこで剣道が弱くなるとか勝てなくなるかというのはあまりないと。あまりその辺は信じなくてもいいかなと思いますね」
理想的な肉体 寺本将司
──身体的にも理想的だと思えるような選手は今までいらっしゃいましたか?
高橋「現日本代表ですか?」
──過去でも大丈夫です。
高橋「理想的というと、さっきも名前が出ましたが、寺本選手とか…」
次回は 剣士として理想的な体
驚異的な体力をお持ちの寺本選手に、体力をカバーする素晴らしい技術をお持ちの木和田選手。超一流の選手はやはり規格外だなあと感じました。
ただ、我々一般の剣道愛好家のトレーニングは、普段の小さな心がけで十分というお話をお伺いして、日頃なかなか時間が取れない中でもできることをしていけばいいのだなあと、明るい気持ちになれました。
次回は、剣士として理想的な体とはどんなものかについて、お伺いします。
ぜひご期待ください!