「剣道は自分のすべてだった」俳優・甲本雅裕さんインタビュー

2018年8月18日 • インタビュー, 甲本雅裕 • Views: 46863

俳優としてご活躍の甲本さん。高校時代に岡山国体に選ばれた剣道の実力者です。心の師と仰ぐのは学生時代の先輩である、京都府警・高橋英明氏。学生時代は「剣道がすべて」といいきれるほど剣道に没頭にされていらっしゃいました。

剣道の極意である「捨て身」を日々の生活の中で体現されており、インタビュー中につい嬉しくなってしまいました。

今回は、剣道で印象に残っているエピソードや、日々の思考法について披露いただきました。進路やいまの仕事に悩んでいる方には必見のインタビューです!

 

インタビュアー・執筆:BUSHIZO 上島 郷

撮影:BUSHIZO 工藤 優介

 

プロフィール

甲本雅裕(こうもと・まさひろ)

1989年東京サンシャインボーイズに入団。在籍中「12人の優しい日本人」、「ラヂオの時

間」、「彦馬がゆく」、「ショーマストゴーオン」、「罠」(作・演出三谷幸喜)など全

作品に出演。

1995年1月劇団解散後、活躍の場をTV、映画、舞台と広げていく。1988年より放送の「踊

る大捜査線」シリーズでは、2012年までのTVドラマ・劇場版のほぼ全作品に出演してい

る。様々な作品で、悪を演じれば内に秘めた狂気を、善を演じれば観ているものもつられ

てしまう印象的な笑顔を、日常の中に存在するリアルな表現でドラマに深みを与えている

。2010年に公開した、藤沢周平原作の映画「花のあと」では、主人公の許嫁役として内に

秘める深い愛情を見事に演じ、藤沢周平さんのご遺族からも同役は甲本しかいなかったと

絶賛された。

近年の主な出演作品に、映画「エベレスト 神々の山嶺」(‘16年)、「四月は君の嘘」(‘16

年)、「たたら侍」(‘17年)、TV「平成細雪」(’18年/NHK)、「99.9刑事専門弁護士Ⅱ」(‘18年/TBS)、「シグナル 長期未解決事件捜査班」(‘18年/カンテレ)、舞台「世界は嘘でできて

いる」(‘14・’17年)、「朗読劇 冬の四重奏『雪と麦わら帽子』」など。

現在、テレビ朝日系列にて放送中の「遺留捜査」に出演中。

また、WOWOWにて「真犯人」が9月23日(日)22:00より放送予定。

 

偶然始めた剣道

甲本「実をいうと、剣道は偶然始めたんです。小学校一年生の時に野球がやりたいと思って、野球のパンフレットを親に渡しました。そのパンフレットがどうやら手違いで剣道のものだったらしい(笑)。初めて練習に行く時に、グラウンドではなくて体育館集合。素振りはするけど、野球っぽくない素振りです。おかしいなと思いながら続けていたら、剣道から抜け出せなくなっていました。自分の性分としても途中でやめることが嫌いなものですから」

 

ー本当に偶然の出会いですね(笑)。剣道の成績はどうだったのでしょうか?

甲本「学生の時は、ずっと岡山県で二番目。中学生の時は、いわゆる全中(ぜんちゅう)に出場したかったのですが、県大会決勝で敗れてしまいました。決勝で敗れたチームがそのまま全中を制してしまったりしてね。とにかく悔しかったですよ」

 

ー県大会で、準優勝は素晴らしい成績ですよね!

甲本「高校生の時も、県大会の決勝で敗れてしまい準優勝。国体メンバーには入っていたものの、念願のインターハイ出場は叶いませんでした。

今でも悔しすぎて思い出すエピソードがあります。インターハイ予選の二日前に、肋骨を怪我してしまいました。

怪我したことが自体が悔しいわけではありません。決勝戦の最中、『俺、いま肋骨折れているんだよな』ということがよぎってしまった。準決勝までは、そんなことがよぎらないくらい勝負に集中できていたのですが、本当に辛いときに自分に負けてしまった

 

ー言い訳が入る心の隙が生まれてしまったのですね…。

甲本「“負けてもしょうがない”と思える言い訳を、自分の中に作ってしまった。このことは、今でも夢に見てしまうくらい悔しいんですよ」

心の師は京都府警・高橋英明先輩

甲本「私の剣道人生は、現京都府警・高橋英明先輩抜きには語れません。高校・大学の先輩ですが、心の師匠は今でも高橋英明先輩です。いまでもたまにお食事させていただく仲です」

 

ー高橋先生の後輩にあたるのですね!

甲本「中学校までは他道場のライバルで先輩といった関係でしたが、高校では一緒になりました。大学に進学するつもりはなかったのですが、先輩のお導きで京都産業大学に行ったようものですしね。大学寮でも同部屋でした」

 

ー高橋先生の、どういったところを特に尊敬されていらっしゃるのですか?

甲本彼はとにかく優しい。人を叱っているところなんか、見たことがありません。しかし、自分には厳しいわけです。背中で部員を引っ張る人でしたね。その背中を見ていると、本当の意味での強さを感じました。優しさからくる強さが滲み出ている方です。

自分が行き詰まっている時・気が短くなっているときに高橋先輩を思い出すと、『このままではいけないな』と思わせてくれる存在で尊敬しています」

 

ー職業は違えど、そこまで大きな存在なのですね。

甲本「高橋先輩のエピソードで一番印象的なのは、一緒に大会に出場した時の一言ですね。その時、先輩は大将で二本勝ちすれば代表戦になる状況でした。大将戦に向かう前に、僕らに『ありがとうね』というんです。僕らは意味が分かりません。あっという間に大将戦で二本勝ちし、代表戦も制してしまいました。試合後に『ありがとうね』の真意を聞くと、『あんな燃えるシチュエーションは滅多にない。自分に懸かっているのは嬉しいじゃない』と仰った。普通はプレッシャーに感じますが、彼は本当にポジティブで無邪気な人です。そんな性格に惹かれて学生生活を送っていましたね」

 

一番大切だった剣道を捨ててみようと思った

甲本「誤解を恐れずに言うと、“剣道がすべてという自分”から脱却したかった。やりすぎていたくらい剣道をやっていたので、『剣道しかない』という状態に不安がありました。

人生の目標があれば、よい関係で剣道と付き合っていくことができたと思います。ですが、自分には本当に剣道しかなかった。楽しかったことも、悩んだことも全て剣道のことでした」

 

ー他のことが見えないくらいに、剣道に没頭されていたのですね。

甲本「社会に出るにあたり、一番大切だった剣道を捨ててみようと思いました。今考えると、その意思決定も剣道がなければできなかった気がしますね」

 

ー大学卒業後は就職されたのでしょうか?

甲本「大学卒業後は就職して一生懸命働いていたのですが、剣道をやめているため宙ぶらりんという感じでした。頼るものがなにもないという状態。明確にやりたいこともない」

 

ーそこからなぜ俳優の道に進まれたのでしょうか。

甲本「そんな時に思ったのは、自分は確かなものを求めすぎているんじゃないかということです。剣道をやめるときも確かなものを求めていましたし、やりたいことを見つけるときにも確かなものを探している。興味レベルのことから、なにか始めてみようと思いました

 

ー興味レベルでも、チャレンジしてみようということですね!

甲本「そのとき、好きだったのが映画鑑賞だった。せっかく自分の全てだった剣道を捨ててサラリーマンになったのだから、思い切って興味がある俳優の道に進んでみようと思ったんです。そして、東京にきました。

確かに怖かったですよ。でも、考えてみてください。お化け屋敷は怖くても入りますよね。恐怖と興味が同等レベルであればやれるんですよ。興味レベルが低いと、恐怖までいかずに不安になると思います。そんな中途半端なことであればやらないほうがいいとは思いますね

 

そのお考えは、いま現在悩んでいる人の参考になりますね。

 

すべての現場は、人間の一生と同じ。喜怒哀楽をすべて詰め込む。

甲本「舞台俳優からキャリアをスタートさせました。俳優の経験はありませんでしたが、運良く有名になる前の三谷幸喜さんと知り合うことができました。

彼のスタンスは“指導はしないので、自由に演じてください”というもの。彼の好みに合わなければ外されるわけです。ある意味で、そんな不確かなものに出会わせてくれた三谷さんに感謝しています。役者を始めてからの師匠は三谷さんです。役者経験がなくても大丈夫ですかと聞いたところ『やってみなきゃ分からないよ』と仰ってくださった」

 

ー高橋先生といい、よい出会いに恵まれていらっしゃいますね!いまのお仕事のやりがいは、どんなところにありますか?

甲本「どんな現場でも、やりがいは感じます。毎回苦しいし、楽しい。それはなぜかというと、毎回が人間の一生だと思って現場に臨んでいるからです。人生の始まりから終わりまで、喜怒哀楽すべて詰め込みます。なので、毎回出し切って死ぬ。セミみたいなものです。セミが鳴く期間は短いけど、どうせなら大泣きして死にたい。そういう気持ちで、現場に臨んでいます」

 

ー毎回がドラマですね。

甲本「人間の人生なんて、活動できるのは長くて50年くらいのものです。いま、この一瞬に集中するというのは普段でも意識しているんですよ。例えば、人の話を聞いているときに、途中でつまらないなと思うことってあるじゃないですか。でも、我慢して聞いてみると目から鱗のようなことを聞けたりします。映画鑑賞でも、我慢して観ているとラストシーンで鳥肌が立つようなことがある。すべての瞬間に100%集中するというのは有益だと思います」

 

ー甲本さんでも、100%集中しきれていないことがあったのでしょうか?

甲本「昔は、自分がキャストされた意図を深読みしてコントロールしていました。いま思えば、それは間違いですね。自分を過信しているコントロールです。常に全力でエネルギーを注ぐ。必要なコントロールは、過去の経験から自然とできているはず。だから、出し惜しみせずに100%でやることを心がけています。自分には、いまこのときしかありません」

 

ー「自然にコントロールできている」というのは、勇気がでるお言葉です。

甲本「役者なんて、自分でものを生まない生き物です。キャスティングしてもらえなければ、浮遊霊みたいなもの。誰かがシャッターを切ってくれないと存在できない。キャスティングしてもらえたことは奇跡だと思って、全力でやるしかない。昔は迷っていましたけど、最近はそういった意識で仕事をしています。もともと迷わない人間ではない。意識の持ち方ひとつで、生き方が全く違いますからね」

 

ー考えさせられるお言葉です…。

「間違っていないはずだ」と思うと、行動できる

甲本「人に『こうしなさい』と言える言葉はひとつもないですよ。自分の意識を言語化しているだけですので。正解じゃなくても、『間違っていないだろう!』と思うことにしています(笑)」

 

ー2元論で考えないと。禅の考え方と似ていますね!

甲本「正解を求めてしまうと、中々前に進めない。でも、『間違ってないはずだ』と思うと、行動力がでます。 正解を求めると、時間がかかる。思っていたことをストレートに表現できないという弊害もありますから」

 

ー甲本さんは、意識の持ち方を工夫されて成功されてきたのですね。大変勉強になりました!

甲本「私が言ったことはすべてではありませんので、頭の片隅に留めておいていただけると嬉しいですね。私もまだまだ道なかばの人間ですので」

 

まとめ

 

ー俯瞰で自分を評価して、意識の持ち方を微調整する。これが甲本さんの成功ポイントではないかと感じました。

「興味レベルでも、間違ってないはずだ」と思って行動に移す。進路やいまの仕事に悩んでいる方には、これほど勇気の出る言葉はないのではないでしょうか。剣道の極意である『捨て身』を体現されているという印象を受けました。

 

本日はお忙しい中、ありがとうございました!

 

 

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One Response to 「剣道は自分のすべてだった」俳優・甲本雅裕さんインタビュー

  1. 服部洋明 より:

    甲本先輩は岡山では知らない人はいない、メッチャ強い剣士でした。
    その勝負強さは憧れでした。
    わたしの恩師の教え子さんで、その先生の退職祝いにメッセージをいただき、感激しました。

    TVドラマで、北大路欣也さんの息子役で剣道をやるシーンで、素人の演技をされていました。きっと、続編ではお父さんを超える達人で再登場されるのではないかと密かに期待しています。
    ますますのご活躍をお祈りしています。