「お笑いでも気剣体一致は必要」タレント・マキタスポーツさんインタビュー

2018年7月2日 • インタビュー, 俳優・女優 • Views: 20479

所属事務所であったオフィス北野からフリーエージェント宣言され、話題を呼んだタレント・マキタスポーツさん。ちょうどフリーエージェント宣言されていらっしゃるタイミングでお話を聞くことができました。

表現者からみた剣道の魅力について、存分に語っていただきました。

元事務所の先輩、浅草キッド・水道橋博士から“才能が渋滞している”と言わしめるなど音楽、俳優、お笑いなど多方面で高い評価を得られています。そんなマキタスポーツさんは、高校時代に山梨県の国体候補選手になったほどの剣道の実力者。
剣道の魅力を卓越した話術で余すことなく表現されていらっしゃるお姿をみて、こういった才能ある方が剣道と関わっていてくださることに剣道人として嬉しく思ったインタビューでした。

プロフィール

マキタスポーツ

ミュージシャン・俳優・芸人。
“音楽”と”笑い”を融合させた「オトネタ」を提唱、各地で精力的にライブ活動を行う。
2012年に公開された山下敦弘監督作品「苦役列車」の好演をきっかけに、第55回ブルーリボン賞新人賞、第22回東スポ映画大賞新人賞を受賞し、役者としても注目を集める。
独自の視点でコラム、評論などの執筆活動も多く、「一億総ツッコミ時代」「アナーキー・イン・ザ・子供かわいい」「すべてのJ-POPはパクリである」などの著作がある。その視点は”食”への探究心にも向けられ、「10分どん兵衛」を産み出す。2016年には「文學界」で初の小説「雌伏三十年」を発表した。

 

剣道を始めたきっかけ

 

マキタスポーツ「実家がマキタスポーツというスポーツ用品店を営んでいました。防具は販売していなかったんですが、竹刀を販売していた。僕が住んでいた町には剣道道場はなかったのですが、隣町から竹刀を買いにくる方々がいらっしゃいました。その方々を母親が接客するうちに、剣道は教育によいと気付いたようですね。僕はわんぱくの次男坊でしたから、相当手を焼いていたようです(笑)」

 

-剣道はやってみたかったのですか?

マキタスポーツ「覚えていないのですが、親から聞かれて自分がやりたいと答えたようですね」

 

-剣道は楽しかったですか?

マキタスポーツ「正直、最初は全然楽しくなかったですね。小学校6年生になってから、徐々に楽しくなってきました。人より成長が早かったため、体躯を活かして試合で勝ち始めたのが理由です」

 

-勝てるようになってくると、楽しくなってきますよね!

マキタスポーツ「一方で、小学校ではマイノリティーであることに嫌気がさしていました。私の町には剣道道場はなかったですし、当時の人気競技はなんといっても野球。自分なりに剣道が強くなってきている実感があっても、友達に共有できないのは息苦しいですよね。『寂しいなあ、なんでこんなマイナーなことをやっているんだろう』という気持ちでした」

学生時代は山梨県の国体候補選手

 

-中学校時代はいかがでしたか?

マキタスポーツ郡大会で個人優勝したので、中学校で表彰されました。初めて認められるという気分を味わいましたね」

 

-それはすごい! 

マキタスポーツ「県大会でも好成績を収めていましたが、上位入賞するのは難しいレベルでした。高校は体育推薦で、山梨県立日川高校に進学しました。剣道で好成績を収めていましたし、学校の成績も良かったんです」

 

-高校時代の成績はいかがでしたか?

マキタスポーツ「高校1年時、県大会の学年別個人戦がありました。そこで、準優勝することができました。自分の剣道の成績では、1番良い成績ですね。高校2年時に“かいじ国体”という地元開催の国体があったのですが、国体の強化選手にも選ばれました」

 

-県大会で準優勝で、国体の強化選手。すごい実績ですね!

マキタスポーツ「そこで衝撃的な出会いがありました。当時山梨県では甲府商業が強かったのですが、1学年上に原選手という方がいました。彼に会っていろんな意味で打ちのめされた。技量に差があるのはもちろんなのですが、剣道に対する姿勢や考え方が自分とは全く違うなと思いました。“本域”の人というか…」

 

-技量の差よりも、精神面に違いを感じたのでしょうか?

マキタスポーツ「自分より剣道が好きで、道を追求している人って本当にいるんだなということがショックでした。そこで自分が剣道に対して本気ではないと言うことに気付かされてしまった。この思いは、高校3年間消え去ることがありませんでした。県大会で準優勝できて調子に乗っていたのも束の間、すぐに落ち込むことになりました」

 

-相当ショックだったのですね…。

マキタスポーツ「剣道をやめようかと思いましたが、体育推薦で入学して剣道部を辞めると白眼視されることが目に見えています。ラグビー部でラグビーをやめてしまった人がいたのですが、白眼視されたまま気まずそうに学校生活を過ごしていました。

中学2年生からギターを始めていたので、どちらかというとそっちをやりたかったですね。そのほうがモテそうじゃないですか(笑)」

 

-間違いないですね(笑)。

マキタスポーツ「高校では、剣道2段までしか取得できませんでした。勝負に勝つためにトリッキーな剣道を身に付けてしまっており、それが仇となりました。昇段審査用の剣道をしてみるのですが、その剣風が自分に馴染んでいないため苦労した。結局3段を取得出来ませんでした」

 

-大学では剣道をやめてしまわれたのでしょうか?

マキタスポーツ「はい。とにかく東京に行きたかったので、東京の大学に入学しました。ずっと剣道をやめたかったので、せいせいしたというのが本音です」

 

お笑いでも気剣体の一致は必要

 

マキタスポーツ「剣道から離れてみて、『剣道は、本当に素晴らしい武道』ということが分かりました。お笑いでも、剣道の経験が活きていると感じます」

 

-どういったところで活きていると感じられますか?

マキタスポーツ「例えば、気剣体の一致という言葉があります。面と言いながら、小手を打っても一本になりませんよね。お笑いも同じです。面白いフレーズを言えたとしても、気持ちが入っていないと笑いにならないのです

 

-非常にわかりやすい例えですね。

マキタスポーツ「私は一時期ボクシング観戦が好きでした。ボクシングも大事なのは間合いです。西洋のスポーツですのでラッキーパンチもあるのですが、パンチを出す前の間合いの取り方に着目すると、剣道と似たところがあるなと思います。パンチが当たる前に勝負がついているのが分かる。剣道でいう技前でしょうか。

剣道はノックアウトスポーツではないし、スポーツですらないですが、剣道で重要なことはボクシングに置き換えて考えることができる。ただ、ボクシングをはじめとするプロスポーツの“結果オーライで勝てばいい”と考え方は剣道には置き換えられない。これが面白いところです。

剣道は、あらゆる勝負事・生き方において重要な“精神(メンタル)”を修養することができる。『なぜ俺はそのことに気付かなかったのか』と思います」

 

-含蓄のあるお言葉です。スポーツで大事なことは剣道に置き換えられないと。

マキタスポーツ「私はエンターテイメントの世界に早く行きたかった割には28歳という遅めのデビューでした。

お笑いや音楽が好きだったので、大好きな世界で勝負してみたいと思ったんです。ただ、音楽やお笑いといった自分が好きなことだけで勝負すると、言い訳する余地がなくなります。逃げ道がなくなる。その状態になったときに、自分が間違っていたことに気付かざるを得ないんですね。反省するしかなくなる。自分がごまかしたり、気付かないふりをしていたものと、向き合わざるをえなくなる。剣道からそんな事はとっくに教えられていたはずですが、当時はスルーしていた」

 

-剣道は自分と相対するしかないですよね。

マキタスポーツ「テレビ番組で20年以上やっていなかった剣道をやりました。芸人のチャンカワイさんと対戦したのですが、慢心がありましたね。自分が芸人をやっている経験則で、“本番が始まってしまえば異様な力を発揮するだろう”と思っていました。しかし、久しぶりに竹刀を構えたとき『相手が遠いなぁ』と思ったんです。距離を感じました。勇気と覚悟を問われる武道だなと思い知らされた

 

-仰るとおりですね。

マキタスポーツ人間、欲があります。勝ちたいとか、打たれたくないとか、いいとこ見せたいとか。そういったことが全て裏目に出ました。消極的な“攻めない”という選択しかできなかった。その選択は剣道としてもよくないし、バラエティー番組としてもよくない。

打ち合わないと番組として面白くないですし、負けた姿を見せた方が芸人としては正解なんです。修行が足りないということを、剣道から学びました。やっぱり剣道は心だなと思いましたね。結果オーライのノックアウトはありえない。問われているのは心だけです。打たれたほうがそのことをよく分かっています

 

-問われているのは、心だけ。本当にそのとおりですよね。

マキタスポーツ「スポーツの世界では科学的な検証のもと、ジャッジが下されることがあります。 剣道の審判はそうではない。打突部位に当たっていないのに、一本にされたことを不服とするのはもっともやってはいけないことです。無粋なこと。審判の旗が上がるということは、打つ前に相手を制していたということです。なので、結果というよりも、プロセスが評価される武道です。ひたすら心の弱さを克服するのが剣道のテーマだと思います。結局自分に向かわざるを得ない。剣道ってやっぱり道だなぁと思います

 

-道ですね。

マキタスポーツ「武道の中でも、オリンピック競技になってスポーツ化してしまった武道がいくつかあります。剣道は、“道である”という部分を残している数少ない武道ではないでしょうか。そういった武道は残していったほうがいいんじゃないかなと思います。皆が納得する合理なものとは違いますよね。くねくねうねうね動いている心をどう動かすか、あるいは動かさないのか。これをどうやって説明したらいいのか分からないですね。難しいもんだと思います。剣道は、実はものすごい武道だったんだなというのが今になって分かります。年をとっても剣道はできますし。結局、どちらの心が強いかというのも問うわけですから年齢は関係ないわけです」

いつか剣道に復帰したい

 

-剣道の魅力をここまで明確にご説明いただくのは、初めてかもしれません。いまでも剣道を観られますか?

マキタスポーツ「たまにYoutubeで観たりしています。最近はほとんど観れていないですが。3〜4年前くらいに関東学生剣道大会を観戦しに行きました。鍋山選手が筑波大学で監督されているのを観て、感慨深かったですね。私は彼と同い年なのですが、スーパースターでしたから。インターハイで観たこともありますが、レベルが違いすぎて“すごいものを観てしまったな”と思った記憶があります」

 

-鍋山先生と同い年なのですね!

マキタスポーツ「同い年です。まだ防具もとってあるので、いつかまた剣道に復帰したいと思います」

 

表現者として成功されているマキタスポーツさんならではの、剣道の魅力表現が大変印象的でした。様々なジャンルで活躍されているマキタスポーツさんのご活躍を今後もお祈りしております。本日はありがとうございました!

 

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One Response to 「お笑いでも気剣体一致は必要」タレント・マキタスポーツさんインタビュー

  1. 島田喜信」 より:

    いいインタビューでした。剣道という武道の本質を見事にわかつていらっしゃる。なかでも学生剣道が勝ちにこだわることでトリッキーに落ちいるということを指導者には理解してもらいたいものです。勝ということがもくてきではないこと、昇段審査の際剣道形がややもすると軽視されるのもそのあたりにあると思います。

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