【東山堂・木村会長インタビュー】「道」の小手は1万円で1万組売れた。利益はない。それでいい。

2018年6月11日 • 東山堂 • Views: 16715

 

大ヒット商品「A-1α」で一世を風靡している京都・東山堂。日本の武道具メーカーで、もっとも勢いがある会社ではないでしょうか。2015年には老舗メーカーのミツボシと経営統合し、温故知新を体現されていらっしゃいます。今回は、東山堂グループを一代で興された木村会長にインタビューさせていただきました。起業のきっかけは、イタリア人剣士を助けたいという思いから始まったそうです。稚気がありながらも論理的な木村会長のお人柄を、大変魅力に感じた楽しいインタビューでした!

 

プロフィール

木村隆彦(きむら・たかひこ)

1958年生   大学卒業後に単身海外へ 帰国後に大手情報会社へ入社
1989年    株式会社東山堂を設立
2002年    京都市上京区に京都ショールームを開設
2009年    びわこ物流センターを新設
2010年    岩手県久慈市に日本武道具製造を設立
2014年    株式会社ミツボシを経営統合
2015年    東京都新宿区に東京ショールームを開設
2017年    株式会社日本武道ホールディングスを設立
2017年    比叡山物流センターを新設
2018年    北海道札幌市に札幌ショールームを開設

東山堂が運営する通販サイト↓

東山堂を設立したきっかけ

画像の出所:東山堂(http://jp.tozando.com/corporation/profile)

 

―東山堂は木村会長が創業された会社です。設立のきっかけを教えていただけますか。

木村隆彦「イタリア人剣士たちの熱意に打たれたことが、東山堂設立に繋がりました。埼玉県の道場関係者からイタリアのナショナルチームの通訳を依頼され、道場に赴いたのです」

 

―木村会長はイタリア語も堪能でいらっしゃるのでしょうか?

木村隆彦「私は英語しか話せませんと道場の方にお伝えしたのですが、『英語でもなんでもいいから、とにかく来てくれ』と(笑)。25人前後のイタリア人が来られてましたね。イタリア人のイメージといい意味でギャップがありました」

 

―どのようなギャップがあったのでしょうか?

木村隆彦「イタリア人のイメージは“陽気で遊び好き”でした。しかしながら、彼らは稽古が終わった後も、師範の先生に延々と教えを請い続けるのです。私より真面目だなと思いましたよ」

 

―熱心な剣士たちだったのですね。

木村隆彦「大変熱心でした。話を聞いていると、イタリアでは剣道具を満足に買えないことがわかった。買えたとしても非常に高額。小手も修理する場所がないので、手の内をボンドでくっつけて使用している方もいる。この状況で剣道をしていたら怪我人がでるおそれもあります。

徐々に『この人たちを応援したい』という気持ちが芽生えてきました

 

―海外戦略を練った起業というわけではなかったのですね?

木村隆彦「そんなものはありませんでした。イタリアの剣士を助けたい。その気持ちだけで始めた会社です。成功するかできるか分からないけど、彼らと約束したことは守ろうと思いました

 

―胸が熱くなるようなお話ですね…。その後、ビジネスはどのように始められたのですか?

木村隆彦「当時はインターネットがない時代です。まずはJETROに行って、自分がやりたいことを相談しました。すると、海外ではカタログの通販が流行っていることが分かった。まずはカタログを作ってみようと思いました」

 

―当時、海外向けにカタログを作っている会社はありましたか?

木村隆彦「もちろんないですよね。ご存じないかもしれませんが、当時は画像加工をネガからやるので非常に高額でした。1枚加工する毎に、数万円かかるといった始末です。最初のカタログは250万円もかかりました。カラーにしたかったのですが、そうするとさらに費用がかさむ。結果、2色で印刷しました」

 

―知名度がない中でのスタートです。海外剣士に信用してもらうために、ご苦労はありましたか?

木村隆彦「当時はまだ無名ですので、苦労はありました。フランスの剣士も剣道具の調達に苦労していたこともあり、フランスで剣道普及にあたられた戸田忠男(とだ・ただお)先生に推薦をいただくことができました。おかげさまで、徐々に信頼していただけるようになりました」

 

飛躍のきっかけ

木村隆彦「決済手段が煩雑すぎるというご意見が、海外から入るようになりました。お客様はクレジットカードでの決済を強く希望されている。

しかしながら、当時の審査基準ですと実店舗がない会社はほぼ審査落ちしていました。審査に通過する企業といえば、上場企業・資本金1億円以上。絶望しましたね」

 

―決済手段の少なさが成長の足枷になっていたのですね。

木村隆彦「住友VISAだけは真摯に話を聞いてくれました。ほかのクレジットカード会社はまともに話も聞いてくれません。何度もお願いして、やっと役員会に上程してもらえることになりました。『これで無理だったら諦めてくださいね』と担当の方は念押しされていましたね(笑)。相当粘って交渉しておりましたので。正直、ほぼ無理だと思っていたのですが、夕方頃に電話があり『なんか、審査通過しちゃいました』と言われました(笑)」

 

―担当の方も半ば諦めていらっしゃったのですね(笑)。

木村隆彦「私も半ば諦めていたからびっくりしました。話を聞いてみると、役員の中に一人剣道をやってらっしゃる方がいた。『剣道を世界に広めるために、必要な事業だ。剣道をやっている人に悪い人はいないから、審査を通してやりなさい』という鶴の一声があったそうです」

 

―奇跡みたいな話ですね!

木村隆彦「資本金100万くらいの会社だったので、審査を通過したのは異例中の異例だと思います。海外剣士にクレジットカードが使えるようになったことを伝えると、大変喜んだ。そのあたりから注文がじゃんじゃんくるようになりました。決済の方法は重要だと痛感しました」

 

―海外の剣道人口が少ない時に事業を始められました。ご不安も大きかったのではないでしょうか。

木村隆彦何度も倒産するかなと思ったことはありますよ。いよいよ危ないかなという時に大きな注文が入ってきて、危機を乗り越えられた。イギリス・ベルギー・ハワイなど記憶に残る国があります。大きな波を乗り越えて、段々と安定してきたんです」

 

―当初はご苦労があったのですね。剣道具以外も取扱うことになった経緯を教えていただけますか?

木村隆彦「東山堂は、お客様のニーズに応えて成長してきました。海外の方は、剣道だけをやるのではなく、様々な武道をやります。そうすると、居合道の商品等を仕入れなければなりません。そうやって取り扱う商品が徐々に増えてきました」

 

―最初から、総合的に武道具を取扱う会社にされようと思ったわけではなかった?

木村隆彦「まったくそんな気はありませんでした。お客様のニーズにお応えした結果、総合的に武道具を取扱う会社になったということです」

 

ジャパン・クオリティの真相

木村隆彦「国産の製品は具体的になにが素晴らしいのか。それは『細部にこだわる日本人の気質』といえます。どういうことか説明します。はっきり言って、日本製と海外製をパッと見の印象で比べてみても、ほとんど遜色ありません。それほど海外製の防具は綺麗に作られている」

 

―実際見分けるのは、困難だと思います。

木村隆彦「では、なにが違うのか。日本人は見えないところにこだわり、丁寧な仕事をします。海外の職人は、見えない部分だから丁寧にやる必要がないと思う。ここが大きな差です。海外製の小手を修理にだすと、きちんと糸が通っていないので修理ができない場合があります。ジャパン・クオリティーというのは、こういった細部にこだわる日本人の気質によって齎された概念です。海外の方がうわべだけ真似をしても、本質的には意味がありません」

 

―気質まで日本人に近づけることは難しいと思います。

木村隆彦「マインドも含めて伝えていかないと、難しいでしょうね。弊社の海外工場は中国にありますが、久慈の職人が定期的に指導に行っています。技術的な指導はもちろんするのですが、マインド部分の指導を特に力を入れています

 

―では御社の海外工場はかなりレベルが高くなってきているのではないですか?

木村隆彦「相当高いと思います。Made in JapanならぬMade by Japanと言いたいくらい。例えば、綴じ紐。弊社の面は、紐の幅が細い特注の綴じ紐を使用していますので、しっかり締まり長年稽古で使用してもガタつかない頑丈な面に仕上がります。そうした細部にこそ一番こだわっています

 

「道」のコテは1万組売れた。利益はない。それでいい

木村隆彦「去年、ミツボシから出した『道』という小手があります」

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―驚異の価格ですよね。

木村隆彦1万円で売り出して、1万組売れました。はっきり言って、利益はありません。でも、それでいいんです。お客様と武道具店さんから信用が得ることができました。いまリピートで注文くださっている武道具店さんは、職人さんがいるお店がとても多いです。彼らも最初は『1万円でいい小手ができるわけがない』とてぐすねを引いていました。実際に商品を見て、驚いたんだと思います。安くていい小手を作るというのは、本当に難しいことですので」

 

―すべての商品に対するこだわりが半端じゃないですよね。

木村隆彦「打たれて痛い、すぐに壊れた等の理由で剣道辞める人が増えたら悲しいじゃないですか。お求めやすい価格で安全性の高い剣道具を提供することによって、剣道をやる人が少しでも増えてくれたらいい。私は、その気持ちだけで商売をしています

―ただ安くするだけなら他社でもできます。御社は品質を担保しながらお求めやすい価格を実現しています。これは本当に凄いことだと思います。
木村隆彦「弊社がなぜ安く出せると思いますか?自信があるからです。自信がない防具を作るとクレームがくるんじゃないかと思ってしまいます。結果、返品がきてもいいように少し高く価格を設定します。私たちはクレームが来る商品を作っていません。事実、クレームは0です。自信があるから安く出せるのです

 

木村隆彦「道着・袴も本当に自信があるものしか出していません。中国で本物の藍染をしている工場と独占契約をしています。その工場は化学藍は一切使用しておらず、本物の藍で染めています。仕事は素晴らしいのですが価格が高かったため、日本の武道具メーカーから敬遠されていました。私は少し高かったとしても、品質を重要視します。彼らと独占契約を結びました。その工場にも、品質が落ちたらすぐに契約を打ち切ると伝えています。お付き合いして6年ほどになるのですが、良い関係性を築けています。利益が少なくても、良いものだけを販売する。それが商売の秘訣ではないでしょうか

 

―弊社も通販サイトを運営しているので、大変勉強になります。信用していただくことが商売を長く続ける秘訣ですね。

木村隆彦「竹刀も、インドネシアの“宏達”という最高の竹刀工場からしか仕入れていません。安くてすぐ壊れるような竹刀を売ると、短期的には売り上げが上がります。しかし購入されたお客様は、弊社のことを信用しなくなってしまいます。私たちは本当に自信があるものだけをお客様に販売し、信用していただくことが大切だと思っています」

 

―品質のよいものを作っている工場も潤うので、三方よしですね!最後に、東山堂さんの今後のビジョンを教えてください。

木村隆彦「長く愛される会社になりたい。『おじいちゃんもお父さんも東山堂で買っていたから、ぼくも買っています』という剣士が増えると本当に嬉しい。今は、消費者がよい剣道具を見分けるための情報がないでしょう。私は、いい物はいいと胸を張って世間にお伝えしていきます。その結果、本当によいものづくりをしている会社だけが残ればよいと思います。それが本当の意味で、剣道業界に貢献することにつながると考えます」

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BUSHIZOの所感

東山堂は現時点で、日本トップクラスの販売力を有している会社です。その成長の源泉は、創業者である木村会長の徹底的なこだわりにありました。

強烈なリーダーシップとこだわりで会社を急成長させたという点において、株式会社セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問の鈴木敏文(すずき・としふみ)氏と重なる部分がありました。鈴木氏は企業のトップという立場でありながら、おにぎり1つのクオリティにまでこだわって、現場に指示を出していたそうです。

こだわってよいものを作り、販売するということ。実践するのは難しいことです。経営の極意を聞いたような気がしました。セレクトショップであるBUSHIZOは、今後より一層セレクトすることに真摯に向き合うべきであると、覚悟を新たにすることができました。

自信を持って商品を販売されている東山堂の商品を、BUSHIZOも自信を持ってオススメしていきたいと思います!


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One Response to 【東山堂・木村会長インタビュー】「道」の小手は1万円で1万組売れた。利益はない。それでいい。

  1. 心道場館長 より:

    たまたま訪問させて頂いたサイトですが素晴らしい内容であり
    大変勉強になりました。
    剣道界の立役者であり、こういった方々が信念を持って守ってくれていると安心にもなります。
    応援させていただきます。