剣道藍染めについて
剣道防具専門クリーニング 武蔵坊「剣洗」の露木 幹也社長にお話をお伺いするシリーズの第8回目です。
前回、剣道面の面縁の修繕方法を解説いただきましたが、今回は藍染めについて教えていただきました。
藍染リメイク 染料の豆知識
露木「市販で売ってる染め液もいろんな染め液があるので、どれを使ってもご自分でやるときは好みの色合いのものを使ってもらっていいんですけど、最初に濡らします。霧吹きでいいので、シュシュシュッと。なぜ濡らすかというと、繊維が膨潤するというか、開いてきたところに1回塗ってあげると、乾いてきた時にぎゅっと締まってくるので、染料が中に入りやすいんです」
露木「剣洗でも染めをする場合は、必ず洗ってからです。というのは、洗いながら、次の染めの第一工程をするんですよね。染料を入れていく前のですね。乾いたまま塗ってもいいんですけど、要は汚れもあったりするものの上に塗ってもなかなか染料がのりにくいので、1回シュシュッと濡らしてあげて、繊維を膨潤させて、広げてあげて、一回目を塗ってあげます。そして、乾いたら二回目を塗ってあげます。刷毛でいいのでね。できれば、3回塗るといいですね。3回目には若干色ムラはあったりするのも修正してあげられるので、3回塗るとご自分で塗ってもきれいにいくのかな、と思います。剣洗でも、最低2回から3回塗るので。でも、まず1回目は濡れているうちに色を入れてあげますね」
露木「で、これが気になる?気になりますよね?」
露木「これ(A液)はもう今日廃棄しようと思っているもので、もう藍としては使えないものです。で、こっち(B液)が元気のいい藍です。色が違うの、わかりますか?」
露木「B液の方が緑というか黄褐色というか。A液のほうは青。A液のほうが何となくよく色が着きそうな感じがしますよね」
──はい。そういう気がします。
露木「でも、A液はもう死んじゃっているというか、あまり色が定着しないんですよね」
──A液の方が色がつきそう。
露木「なんか、インクみたいで、いい感じで。A液のほうが色がつきそうですよね、ビヤーっと」
──はい。そうですね。
露木「B液だと、天然の藍を使っているので、色味が全然違うんですよね」
──透明度というか?
露木「そうそう。臭いもそうですよ、B液はちょっと臭い感じで。泥臭いような臭いがするんですよ」
──おおー
露木「A液はそんなに臭いしない」
──あんまりしないですね、A液は。
露木「B液はもう強烈」
──強烈ですね。
露木「おおー」
──その分癒着するのでしょうか?
露木「そう。B液のほうが生きてるというか、この液自体が酸欠状態になっているというか。
本天然藍だと、バクテリアによって中で発酵して、酸素がない状況になっているんですよね。うちも天然の藍を使っているんですけど、これは化学的に中の酸素を抜かしているものなんです」
露木「A液はもう酸素が入り切っちゃっているので」
──そうなんですね。
露木「そうなんです。見るからに違いますよね。B液のほうが元気がいい」
露木「で、面白いんですよ。発色剤を入れます。水でもいいし、空気でもほんとはいいんですけど。
A液は変わんないですけど、B液はこれを入れると…」
──お!
露木「この時にがっと発色して」
──おおー
──え?これは水ですか?
露木「これは、発色剤という薬剤なんですけど、水でも同じ効果があります。もう一回やりますか?」
──化学変化か何かですか?
露木「酸素のないところに酸素を抱いて、藍が発色するんです」
──藍染めというのはこういうものなんですか?
露木「そうそう。藍染は、空気で酸化させたり水を加えてあげて染色します」
露木「水だと薄まっちゃうだけかな。あ、水だとやっぱりダメですね。でも、ちょっと青くなっているのわかりますかね?」
──あ、はい。
露木「これ、混ぜるとだんだん…」
──濃くなりましたね。
露木「濃くなります。こういう状況を、布の上で作ってあげるんです」
露木「さっきのほうが面白いですよね。発色剤というものがあるんですよ。たぶん、酸性のものだと思うんですよね」
──発色剤というものがあるんですか?
露木「そうです。普通の水でも空気でもいいんですけどね。藍は、空気に触れるとどんどん青くなるので」
露木「一滴でも藍がこうやってぎゅっと発色します」
露木「A液は全然変わりません」
露木「なので、こういう色(B液が反応した時の色)の時に塗ってあげて、置いておくだけで空気に触れてどんどん青く変化していきます。藍の色でも赤みがかかったところから、こういう紺の色まで、幅があるじゃないですか。よく袴でも、ちょっと赤みがかっているなあというものとか」
──あ、あります、あります。
露木「あれはね、藍が若いときは赤くて、徐々に青くなるみたいな感じなのです。でも、A液くらいまで青くなるともう染まらないというか色がのらないんですよね。B液のようになっていて、布の上でぱっと発色させてあげると、のりがいいというか、定着がいいんですよね」
露木「B液の色から10日から2週間でA液の色になっちゃうんですよね。そうすると、もうA液は使えないんですよね。なので、B液の色のうちに、塗って発色させるという作業になります」
──この液を袴などにつけて、そのあとに発色剤をつけるのですか?
露木「うちは、袴とか稽古着の染めはやってないんですよ。大変なので。通常は、染屋さんだと、糸を藍の液につけて絞って水で洗って、またつけてという繰り返しをするとか、染料が入っている桶が並べてあってどんどんつけていって濃くしていくというやり方もあったり、いろんなやり方があります。京都で見たのは、染料の入った桶の中に反物がばーっと流れていって、上がってくる時は、最初はこの藍の液みたいな色なんですよね、でも、時間が経つと、真っ青に変わっていくというものですね。ああ、こういう原理で定着してくるんだと思いましたね」
露木「でも、市販されているのは、どうなんでしょうね?もう発色剤が入っているものもあるのかもしれないですよね、それをそのまま塗るみたいなものがね」
──これを塗るのは刷毛か何かですか?
露木「うちは、全部吹いていきますね、シューっと」
──あ、塗らないのですね?
露木「そうですね、ピースガンより大きい機械で、シューっと」
──全体に吹きかけて?
露木「そう、全体に吹きかけます。そうすると、青くなっちゃいますね、手が。でも、どうしても落ちてきちゃうんですよね。これが、止められたらいいんでしょうけどね。完璧に止めるのは今のところ難しいかなあ」
色落ちを止める薬剤を開発中
──藍止めってありますよね?あれは効果的ではないのですか?
露木「いろんなものを使ってみたのですけど、止める薬品も、極力色を出さないようにして汚れをとるという洗いながら止めるものや、事前に止めるというものもあります。ただ、要は藍を止めるスピードが遅くなるだけで、完全に止まるわけではないんです。繊維の上に藍がのっていて、さらにその上にコーティングしているんですよね、藍を止めるというものは」
──そういう意味では効果があるんですね?
露木「効果はあります。ただ、完璧に落ちないわけではなくて、そのスピードが遅くなるという感じですよね。でも、そこに、漂白剤の入った石けんとかを使うと、藍がどんどん取れてきてしまうので、藍止めをして手洗いなどをしていけば、かなり効果が残ってあせていくスピードが落ちますね。抜けないわけではないと思いますけど」
露木「それも作っています、今」
──そうなんですね。
露木「最初に使うもの、洗い流すときに使うもの、柔らかくしんなりしていい感じに加工するもの、という薬剤を今作っています」
──売りたいですか?
露木「売りたいですよね、もちろん」
天然の藍は生きている
今回は、藍染について解説いただきました。
解説動画はこちら→ https://www.youtube.com/watch?v=LYpP_OBZ89c&t=8s
真っ青な色の染料のほうが色がつくかと思ったのに、発色剤と混ざり合うことで、薄緑色の藍の液のほうが濃厚な藍色になったのは驚きでした。
このような化学的な仕組みが昔から知られていたのですから、伝統というものの奥深さをしみじみと感じ、出来ることならいつまでも大事にしていきたいものだと感じました。
次回は、この剣洗シリーズのまとめとして、剣道具メンテナンスのプロからのアドバイスをいただきたいと思います。
お楽しみに!
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