”言葉の力”を信じて、もっと外に―『ドラゴン桜』三田先生への剣道インタビュー後編

2017年12月8日 • インタビュー, 漫画家 • Views: 4688

大ヒットした『ドラゴン桜』や『砂の栄冠』の作者である三田紀房先生。小学校から大学までバリバリ剣道を続けていらっしゃいました。ビジネスマン向けに書籍やコラムも書いていらっしゃる三田先生に、剣道の国際マーケットにおける可能性についてお聞きしました。

前編
『ドラゴン桜』『砂の栄冠』の三田紀房先生が剣道で得たものとは

中編
◯◯があれば剣道はさらに世界に広まる!

プロフィール

三田 紀房(みた・のりふさ)
明治大学政治経済学部を卒業後、西武百貨店に入社。家業の衣料品店を兄とともに引き継ぐ。経営不振と多額の負債で資金繰りに苦しむ中、漫画雑誌の新人賞の募集を見て、賞金を得るために応募・入賞。『クロカン』『ドラゴン桜』『マネーの拳』『砂の栄冠』など数々のヒット作を生み出す。『個性を捨てろ! 型にはまれ!』『汗をかかずにトップを奪え!』などビジネス書の執筆も行う。
「モーニング」「週刊Dモーニング」では“投資”をテーマにした『インベスターZ』も連載(2017年6月完結)。現在「ヤングマガジン」にて『アルキメデスの大戦』を連載中。

 

武道はシンプル、実は海外に出やすい。

― 剣道は、海外でも広がりをみせていますが、それについてはどうお考えですか?

武道って実はすごくわかりやすくつくられたものなんです。日本人が作った「格技」は勝ち負けがはっきりしています。
逆に西洋人がつくったスポーツは、ルールがすごく複雑なんですよ。
西洋人て理屈好きなんで、理屈に対して答えを用意したがる。全部系統立ててルール化しないと納得しない。
東洋人はわりと理屈と答え以外でものを考えるので、理屈は排除して、「面、小手、胴、突き、当たったほうが勝ち」という具合です。柔道も投げれば勝ちですから。転がしたり、足引っ掛けたり、相手を倒せばちょっとポイントになる。

格技は、とにかくシンプル。ということは、実は海外に出やすい
わかりやすいんですよ。説明する必要がないから。
そういう意味で、日本人が考えたスポーツ(武道)っていうのは海外に広めやすい
アドバンテージです。外に出して、経験してもらって、良さに気づいてもらえれば良いんです。だから、格技は国際マーケットに受け入れられるコンテンツだと思います。

神秘的なもの、制約が多いことに人は惹かれる

― 相撲のルールもシンプルですよね。
だから外国人は相撲を観に来るのではないでしょうか。どっちが勝ったか負けたかわかりやすいから。
唯一、剣道の弱点は「いつ入ったかわからない」ことですかね。
瞬きしている間に一本が入ってしまうことがあるから、外国人はわからない。
でも、それも一つの神秘性の演出になって良いのではないかと思います。
神秘的なものって、海外の方がすごく求めるじゃないですか。
そういうものに対する欲求が強いですよね。

剣道の会場ってシーンとしてます。全日本選手権なんか特に。
声を出しちゃだめ、応援してはダメって、制約が多い。
いまどき、この世の中で応援しちゃダメなんて剣道くらいですよ。不思議な空間です。

有効打突があったら拍手だけできるとか、そんなルールを観客に強要する競技なんて剣道くらいですよね。
観客にも、「ちゃんとした空気感を作れ」と要求しているんです
でも、海外の人って制約が多いことに逆に惹かれたりするんですね。
そういうものを体験することが逆に快感だったりする。



ただ”礼”を見るだけで心が洗われる

また、剣道の試合は礼が非常に綺麗ですよね。
なんと言うか……礼を見るだけで心が洗われる感じすらある気持ちがすっきりする
それも含めた雰囲気を体験してもらうのは、良いかもしれないですね。

本来、観客ってお金払ってきてるわけですから、ある程度は好きに振る舞っていいはずなんです。
でも、「観る側にも品位と人格が必要なんだ」と言われると……そういうのに、人間は弱いんですよ。
口うるさいオヤジの寿司屋に行く感覚というか(笑)。それによって、普段味わえない非日常を経験できるのではないでしょうか。

オリンピック競技になることで興味が失われる?

―普段は魅力に感じませんが……(笑)確かにそれも剣道の魅力ですね。
万人受けはしないかもしれないけど、中にはそういった雰囲気が好きな海外の人っているから…。
剣道の空気感が失われるようなことって、誰もが反対すると思うんですよね。
例えば、わかりやすくするためにどっちか必ず道着の色を変えるとか、皆が反対すると思う。「それは違う」ってね。

剣道がオリンピック競技になったら、海外の人が興味を失うんじゃないかな。
海外で剣道を支えている人がいる気がするんですよ。剣道の神秘的な雰囲気が好きな人たち。
そういう人たちが、一番のベースとなって支えている。
日本人以上に日本人を愛している人がいると思うんです。
そういうコアなファンを無視してはマーケットは成り立ちません

目的によって手段は変わる

― もし先生ご自身が剣道関連でビジネスをやるとしたら、どういうことをなさいますか?
ビジネスには目的が必要ですよね。目的によってビジネスの形は変わると思うんですよ。
単純に儲けるだけなのか、何かに貢献したいという気持ちでやるというのとでは、スタートがやっぱりぜんぜん違う。

「広めること」「普及すること」を目的とするなら、さっきいったようにビジュアルを活用するのが今の世の中では非常に有効だと思います。

ある画像や映像に対して何かしらの加工処理を施し、二次的なコンテンツにつくり変える。
そしてそれを世界に向けて配信するというのが、一番今の時代に合っています。
一番アピール力があると思うんですよね。魅せるっていうことが大事です。
魅せて、何かを感じてもらう。そして感じてもらうためにはそれなりの演出が必要です。

あとは……剣道って何かしらの主張があるじゃないですか。
心の持ち方であるとか、あり方について

例えば、「残心」て言葉がありますよね。
残心とは何かと聞かれたら、ぼんやりとは回答できるけど、キチンと体系づけたものってないと思うんですよね。

書店の剣道コーナーにも色々な書籍があるけど、みんなそれぞれの解釈があって、統一した見解がはっきりしない。
学術的に、体系づけて剣道を整理してくれる人がいないかなぁって思います。

勝ち負けだけではないー”個人の成長”をものすごく求める競技

剣道って、勝つことにあまり価値をおかない、非常に珍しい競技です。
個人をどれだけ高められるかが重要で、対戦して勝つことにはそんなに価値はない。
最終的に自分がどれだけ人間として立派になれるか。
ずっとそれを考え、積み重ねていきます。
剣道を競技にしたことも「どうなんだ」って言われるくらい、個人の成長をものすごく求めるのが剣道ですよね。

剣道の”本質的な価値”を外に向けて発信する

その本質を、もう少しわかりやすく世の中に伝えることができないかなって常々思うんです。
剣道の稽古の終わりに、先生が剣道についてお話してくださるじゃないですか。
剣道やっている人だけが聞くっていうのは、非常に閉鎖された空間でしか価値が生まれないのではないかと思うんです。
もっと世の中に、「剣道の持つ本質っていうのはこういうものなんですよ」って発信してもいい。
剣道用語も含めて整理して、ある程度統一した見解っていうのをコンテンツとしてつくったほうがいいんじゃないかなって僕は思うんですよね。
わかる人だけがわかっているのではなくて、メンタルをどう鍛えて自分を高められるのか発信するんです。
先生の話を聞いていると、「良いこと言うなぁ」って感じることが多いじゃないですか。


人を動かすのは、「言葉の力」

― 多いですね、大人になってから気づきましたけど(笑)
やっぱり人を動かすのは「言葉の力」です。だから、もったいなぁって思ってるんですよ。
剣道って良いところがたくさんあるじゃないですか。

ちゃんと世の中に、コンテンツとして提供するっていうことをしてもいいんじゃないかなって。
自分が持っている価値って、よくわかってない場合が多いので、もう一回見直して、体型立てて整理して、わかり易い表現に作り変えれば、新しい価値として剣道が生まれ変わるような気がするんです。

昇段審査のときに勉強して、その時だけ覚えるけど、あとはみんなほったらかしになってて……なんとなくそれぞれが、それなりの解釈で終わっちゃってますよね。
もっと整理してはっきり、明快な形でつくり変えられないかなぁって、もったいなく思っています。
剣道にしかないことがたくさんあるから。精神的な言葉をたくさん持つ競技って、剣道くらいしか無いと思うんですよね。

― 禅と似たような言葉がありますよね
宗教的な側面を持ったところがありますよね。相手に勝つっていうよりも、己に克つって考えるところとか。
自分を常に見つめることが一番の真髄みたいなところはありますよね。

剣道はポテンシャルが高いので、広め方次第ではさらなる発展が望めると思います。
― 剣道が持つ良さを再度見直して、価値を高めていきたいです。本日は色々なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!
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取材:上島郷、工藤優介
写真:小林里奈
文:佐藤まり子

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剣道を愛するすべての人に“をテーマとした老舗の剣道雑誌。昭和51年に創刊され、剣道の情報を伝えるメディアとして、多くの方々に愛されています。剣道の入口に立ったばかりの方から、さらに剣道の深奥に踏み入ろうとする人にも応えられる雑誌です。
今回の三田先生のインタビューや「海外”剣”聞録」など、BUSHIZOからも多くの記事を提供中。

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