”剣道は長い旅のよう” ベトナム人剣士に聞いた剣道の魅力とは

2017年9月22日 • 海外剣道 • Views: 1548

人懐っこい笑顔が印象的なベトナム人剣士のThong Khuong(トン・クオン)さん。仕事で日本を訪れる際は、複数の道場や大学で熱心に練習をしています。ASEANに所属するベトナムは、ASEAN剣道大会にも参加し2016年には優勝も果たしました。剣道に対して真摯に向き合うベトナム人剣士の想いや、ベトナムでの剣道環境についてインタビューしました。
(剣道日本10月号掲載『海外”剣”聞録』)

プロフィール
Thong Khuong(トン・クオン)
三段。ベトナムのハノイ出身。20歳のときに剣道を始め、今年で11年目。ITエンジニアとして東芝ソフトウェア開発ベトナム社に勤務。

◯剣道歴
ベトナム:ハノイ剣道クラブ
日本:東芝小向剣道部、NTT剣道部、桜田剣友会、八王子剣道連盟、工学院大学剣道部、東京欅剣士会、金王道場で稽古

剣道を始めたきっかけ

―まず、剣道を始めたきっかけについて教えていただけますか?
日本の漫画の『おれは鉄兵』を読んで興味を持ち、友人と一緒に剣道を始めました。漫画は他にも、『ドラえもん』や『ドラゴンボール』が好きでしたね。

ベトナムでは、ハノイ剣道クラブに所属していました。ハノイ剣道クラブは、防具をつけている人が40人、全体で60-80人くらいです。皆さん、学生と社会人ですね。

ベトナムの稽古環境は?

― ベトナムは日本よりも気候が暑いですよね。稽古はどういったものでしょうか?
はい、ベトナムの練習は暑くてとてもハードです。先生も厳しく、42度の気温のなかで、休憩なしで練習をしていました。日本のように環境が整っておらず、二回ほどコンクリートの床で稽古したこともあります。

私がハノイで稽古していたときは、5人の先生がいらっしゃいました。そのうち4人は日本人で、1人は韓国人の先生でした。ベトナムで長く働いていらっしゃる先生方です。先生方はそれぞれ異なった剣道スタイルでしたが、剣道を愛していらして、剣道を楽しむ気持ちを私たちに教えて下さいました。

第8回ASEAN剣道大会(タイで2007年に開催)に、ベトナムが初出場した際、先生はこんなことを教えて下さいました。「今回の試合は、他の国と試合をする初めての試みです。運がよければ勝てるかもしれないし、負けることもあるでしょう。しかし、試合に負けても礼では負けてはいけません。」
この言葉から、どんなに辛い稽古でも剣道を通して自分自身を向上させることができるんだと学びました。


ハノイでの剣道講習会の様子

ちなみに、竹刀はベトナムではとても貴重なんですよ。4・5年前までは竹刀の購入は本当に難しかったです。このため、私達の剣道クラブでは、古い竹刀を組み合わせてできるだけ長く使えるようにしていました。初心者の方には、竹刀を貸出していましたね。

現在は竹刀の価格も下がり、さらにE-BOGUや東山堂のインターネットショッピングを通じて購入できるようになりました。

―試合はどういったものがあるのでしょうか?
あまり頻繁に大会はないですが、香港剣道大会やASEAN剣道大会はベトナム人にとって大きな大会です。香港剣道大会では2014年に準優勝、ASEAN剣道大会も2016年に念願の優勝を果たしました。


ASEAN剣道大会。右から三番目がThongさん

日本とベトナム剣道との違い

― 日本剣道との違いをこちらに来て感じましたか?
コンクリートの床ではないのに足が痛くなります。きっと私に悪い癖があるんですね(笑)自分で考えて、課題を直そうとトライして、先生方にレビューしていただくことを繰り返していきたいです。
日本の道場は、高段者の先生や年長者の先生がいらっしゃるところが私にとってはすごく魅力的で、ベトナムでの剣道との大きな違いだと思っています。ベトナムの道場は、新しいカルチャー(日本文化)を学びに来る人がほとんどですが、日本の道場はすでに日本のカルチャーを知っている方ばかりなので、勉強になります。

日本剣道とベトナム剣道、カルチャーの違い

―日本とベトナムで文化の違いを感じることはありますか?

実は、最初は気合を出すのが恥ずかしかったです(笑) 気合自体に驚いたり、怖いという気持ちはなかったのですが…。気合を出すというのは剣道独特ですよね。
また、剣道を始めるまでは、どうして礼をするんだろうと不思議でした。今ではその理由が理解できます。相手に対するありがとうの気持ちですよね。他にも、剣道を始めて何年か経って、少しずつ少しずつ、理解できてくることがあります。
たとえば、渋谷の金王道場は、神社に併設されているのもあり、とてもクラシックな感じがします。神様に礼をするというのは新鮮です。また、子供たちが稽古をする姿をみて感動しました。ものすごくたくさんの早素振りをしていて。厳しいのに、先生についていっている姿はすごいと思います。

自分の剣道を向上させたい

―トンさんは剣道のどんなところが好きですか?

高段者の先生に稽古をつけていただき、向上できるところがいいです。また、練習後に飲み屋で先生方とお酒を飲み交わしながら、剣道について議論する時間も私はとても好きです。先生たちの本音や、先生方が感じていらっしゃることを聴くことはとても楽しいです。


道場の先生方と練習後に飲み屋にて

剣道は、長い旅のよう

―今後、こんな剣道を目指したい、などありますか?
剣道は、まるで人生そのものです。自分自身に向き合い向上していく、長い旅のようなものだと思っています。稽古を積んでもっと剣道を理解したいですし、自分自身も成長していきたいです。

私の恩師に教わった言葉でとても印象的なものがあります。「五段になれば、六段の先生がどう考えているか分かるようになるでしょう。六段になれば、七段の先生が考えていることを理解できるようになります。これは剣道の面白さの一つです。」この言葉を聞いて、段の大切さを知りました。たくさん修練を積んで、高段者の先生方が何を考えていらっしゃるのかを知りたいと強く思います。

文:佐藤まり子

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