剣道小手の手入れ方法のつづき
剣道防具専門クリーニング 武蔵坊「剣洗」の露木 幹也社長にお話をお伺いするシリーズの第5回目です。
前回、剣道小手の手入れの仕方についてお伺いしましたが、そのつづきとなります。
乾かすときの注意点
露木「あとね、そうそう。熱で乾燥させると、これはね、革って濡れているところから急激にぎゅーっとしぼんでくるんですよ。
そうすると、熱でしぼんでしまったものはもう戻らない。
(お客さんが持ってきた小手の)手の内が、もう子どものものみたいになっちゃってるから、「どうしました?」って聞くと、「濡れてたからドライヤーでずっと乾かした」って。
熱い温度の風を当て過ぎると、キュッとなってしまうんです。縮めさせたい時はいいのかもしれないけど。
鹿革ってスポンジ状になっているのですが、そのスポンジ状のものがキュッとなってしまうと元に戻らないです。
いくら油というか加脂剤を入れていっても戻らない。熱い風は絶対NGです。布はまあ大丈夫なんですけど、革に関してはもう温風は絶対NGです」
──もう広がることはない?
露木「そうですね、1回縮まっちゃうと、もう広がらないので、普通の風で。大気温と同じ風だったら大丈夫」
保管方法が大切
──4、5回使ったら、また臭いが戻ってきちゃったりすることがありますが、そういうときはもう一回自分で洗った方がいいですか?
露木「洗ってもいいですけど…保管方法はどうでしたか?」
──保管方法ですか…ああ…防具袋に入れっぱなしだったり…
露木「臭いが出る最大の原因は、汗自体は臭くないのに、それが水分のまま放置されると、臭いが発生してくるところにあります。
だから、稽古終わった後に必ず、外というか日陰というか風通しの良いところで乾かしてあげると、菌が発生する前に水分的なものを飛ばしてしまえます」
露木「よく昔の道場って、上に干してあったじゃないですか?あれだと、ベストだなって感じ。
風も通って、防具袋じゃないところで、そのまま置いておくっていうのは結構理にかなっているなと。
昔の道場って、みんな上の方に引っかけてましたよね、ああいうのってやっぱり理にかなっているなって」
──胴の裏に引っかける紐みたいなのがありますけど、そのためなんですね?
露木「そうそう。紐があって、面を通して…今は使わないですけど…」
露木「あと、臭いとカビ。
カビも皆さん、結構はやしてしまうんですけど、カビも風さえ通っていれば、どんなに栄養分があったとしても生えにくい、というか。
カビの菌というのは、この辺にもふわふわしているんですよね。
で、それが、この辺にポコッとついて、それがじーっとしていて、温度と湿度が適正だと、風が止まっているので、根が生えて、わーっと繁殖してしまう。
でも、風が、そよ風でもふーっと吹いていると、カビの菌はその場所にいられないというか、根付かないみたいな。
だから、風があると、カビはもう生えないです。もちろん、湿気もとっていくので」
露木「ジャージの剣道着の場合、水分をつけたまま稽古をしているので、臭いがすぐ出てくるんですよね。
それと同じで、小手も多分何回か使っていて、小手自体がもう湿気を吸いきれなくなってくると、臭いが発生してきます」
──飽和状態ということですか?
露木「そう。飽和状態になると、臭いが発生してきます。
だから、よく乾かしてあげると、臭いはあんまり発生しにくいかなっていう」
昔の防具は臭くない
露木「それで言うと、昔の手差しの防具だと臭くなってないというか、臭くないんですよ。みんな同じような臭いがするんですよね。
昔の手刺しでできた古い防具って、ここにもあるんですが、真ん中にあるものみたいな、ああいう防具って、臭いしないんです。剣道特有の汗の臭いってあんまりしなくて」
──へええ、そうなんですか?
露木「やっぱり中に入っている綿がぎゅーっとなっているので、その分、汗を吸っているんでしょうね。
で、いっぱいになる前にまたはき出しているみたいな。
なので、昔のというか手刺しの厚い防具って、あんまり臭いがしなくて。同じ臭いがするんですよ、藍と革と綿の臭いがね。
強烈に結構汚れてても、臭いはあんまりしないみたいな」
──それって、芯材の量が今とは違うということですか?
露木「そう、違うんですよね。あとは、真綿の量っていうか。
それは、要は水を含み切れなくなったときに、水という形に近い状況になればなるほど、臭いが発生しやすいみたいな感じじゃないかなと思いますけどね。
なので、脱水は1分。タオルを巻いて」
──中にタオルを入れるのは、型崩れをしないようにということでしょうか?
露木「いち早く水分を取ってあげるってことですね。中にタオルを入れるというのも、外からだけでなく、内側からもどんどんタオルで吸い取ってあげるためです。それで脱水はもう1分くらいで。
そういえば、こないだ洗ってらっしゃいましたよね、ご自分でも。
あれは洗えますよね、確かに。ポリエステル系ですからね。織り刺しだけどね」
──ああ、あれはもう、全部ジャージ素材なので。
露木「こういう織り刺しの綿のものだと、結構摩擦に弱いので。叩かれるのはいいんですけど、擦れるのに弱いんでね。
クラリーノなんかは、回しても大丈夫かもしれないですね。意外と鹿革よりは強い感じがあるので。
でもこうやってさわっているうちに、どんどんさっきより柔らかくなってきますね。しっとりしてきて」
──で、乾いたらさっきみたいに叩くんですね。
露木「叩くとか、こうやって自分で揉んで上げても、めっちゃ柔らかくなってきますね。
素手で竹刀を握ってるんじゃないかというくらい。ぴたっとくるんで、いい感じになりますよね」
稽古後の保管の仕方も重要
今回は、前回の続編として引き続き、小手の手入れ方法について解説いただきました。
解説動画はこちら→ https://www.youtube.com/watch?v=zpE9fdiL3tE の後半部分
小手の手入れ方法としては、洗い方・乾かし方のほかに、稽古の後の保管の仕方も重要なんですね。
最近の小手よりも、昔の小手のほうが臭わないというのは驚きです。
高いところに吊して保管することなど、昔の人がしていたことや使ったものには、やはり理にかなっているものが 多いということなんでしょうね。
次回は、いよいよ残すところ1つとなった、面の手入れの仕方を解説して頂きます。
どうぞ、お楽しみに!!
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