剣道小手の手入れ方法
剣道防具専門クリーニング 武蔵坊「剣洗」の露木 幹也社長にお話をお伺いするシリーズの第4回目です。
今回は、剣道具の中で最も汚れているのではないかと思われる、小手の手入れの仕方についてお伺いしました。
一番臭い小手の攻略法
──全部の防具の中で一番洗うニーズの多いのはおそらく小手かと思いますが…
露木「そうですね。完全に小手です」
──小手を自分で洗う時に、一番注意するべきことはなんでしょうか?
露木「一番は手の内の革ってガサガサやかちかちになってしまうことですね。
うちの洗い方だと油分を入れてあげているので、使ってあげているうちにすごく柔らかくなっていくのですけど。
小手は革をなめして作るのですが、革をなめすってことは劣化に向かっているんですね。
もともとはすごく油があるものを、水でなめしてなめしてできあがっていくのでどんどん劣化していく感じなんです。
これをもみほぐしてあげたり、木型を入れて手の内側も外側も叩いてあげたりすると洗う前よりすごく柔らかく使いやすくなります。」
露木「もちろん、手でほぐしてあげてもいいですし。
洗った後は少し締まる感じがしてくるんです。特に油分が抜けてしまうと、固くなりやすいですね。
なので、僕たちの場合は、後で油分を添加してあげます」
──鹿革の手の内の場合ということですか?
露木「そうですね。でも、クラリーノでも同じで油分を入れます。
そうすると、2、3回使ったときに、すごくいい感じになってきます」
──一般の方も、洗った後は油分を足してあげた方がいいのでしょうか?
露木「足してあげた方がいいんですけど、多分市販されているものはないんじゃないかなと思います」
──小手に合うようなものがですか?
露木「そうですね。強いて言えば、髪を洗う時の、さらっとタイプじゃない方のコンディショナーなら、成分としては近いかな。
コンディショナーとかはシリコンなんですよね。代替えにはなるかな。僕たちが使うのは動物性の皮脂が精製されたものなのですが、それを水で溶いて、添加していく。
そうすると革がなめらかになるというか。ある程度保湿しているんですよね、革というのはね。それを保つという。
それが全部抜けていってしまうと固くなるって感じなんですよね、革は」
──それは化学製のものでも?
露木「一緒ですね。クラリーノ製でも。油をちょっと添加してあげると、しっとりして柔らかくなるみたいな感じ。
布もそうなんですけど、100%乾いているわけではなくて、生地自体が10数%の湿度を持っているので、そういう状況と同じように極力してあげる感じですかね」
意外に簡単!小手クリーニング
露木「石けん分を倍くらいに薄めて、まず手の内の表と裏にシュシュシュッとつけてあげますよね」
──スプレーみたいなものでですか?
露木「霧吹きでいいと思いますね。
霧吹きみたいなものでシュッシュッシュッと汚れているところにつけてあげて、小手だったら洗面器とかバケツでもいいんですけど、そのままジャボンとつけます」
──霧吹きしたあと、すぐつけてしまっていいんですか?
露木「そうですね、霧吹きして1分くらいして、石けん水が浸透してきたら、バケツとかにつけます。
その後は、たぶん僕らが洗う時は、もう5分から10分以内しかつけないです」
──あ、じゃあ、1時間とか2時間とかつけないんですね?
露木「つけないですね。
小手を水につけると、中に入っている空気がポコポコシュワシュワ出てくるんですね。それが収まったら、水が全部に行き渡ってるな、と」
──浸透してるということですね。
露木「そう。浸透するまでつけるという形ですね。
そのあとは、キッチン用のスポンジのザラザラしていない方に、石けんをつけて、お皿を洗うときと同じようによく泡立ててあげて、小手筒の中に入れて洗ってあげます」
──優しく?
露木「そう。優しく洗ってあげる。もうそれだけで結構きれいになります。お醤油とかソースがついているわけではなくて、汗や皮脂、塩分だけなのでね。
皮脂は油分なので、石けんで浮かせてあげる。あと、塩分は水でジャンジャン流すだけでどんどんとれていくので。
なので、スポンジを切ったもので小手の奥まで洗ってあげたり、手の内の内側は、歯ブラシみたいなブラシで軽くこすってあげたりします。それでもうかなりきれいになるはずです。
まあ、やり過ぎてもいけないので。手の内の内側を洗う時に、石けん分が足りないときは、中性の石けん水を追加で霧吹きして、シャカシャカとブラシをかけてあげる。
外側を洗う時は、スポンジを泡立てて軽くなでるくらいで、もう十分汚れが取れます。
スポンジのガサガサした面でガサガサ洗ってしまうと、そこだけ白化といって色が落ちて、毛羽立ってしまうんですよね、摩擦で。
毛羽立つから、そこだけ白くなってしまうんです。もちろん、色も抜けてしまいますし。なので、優しく洗います」
──藍がおちてしまうんですね?
露木「そうですね。藍はもちろん水につけるだけで、ちょっとは出るのですが、色があせるほど普通は出ないので、短時間で洗います。
皮脂や汚れが落ちてきたら、汗の部分は水道でもシャワーでもいいので、ジャンジャン流す。汗の部分は、水量が多ければ多いほどどんどん流れていくので、ジャンジャン流す。
そこを怠ってしまうと、汗や皮脂の分がちょっとでも残って、それが臭いを発してしまうので、その分だけジャンジャン流してあげる。
それだけでもう結構きれいになりますね。
水量はもうすごく多くどんどん」
──洗い残しがないように?
露木「そうですね。すすぎにジャンジャン水で流してあげるだけで、臭いの部分は取れていくかな」
──で、その後は…?
露木「さっき言ったリンス系のもので、もう一回バケツや洗面器みたいなものにつけて、2、3分。
でも、今度はもう水が入っているのですぐ浸透しますので。
それで、水から上げた後は、脱水というか脱液だけはしたほうがいいかな、と」
──リンスみたいなものをつけた後は水で流しますか?
露木「そうですね、でも、すごく軽く流してあげるだけで。
脱水をご家庭でする場合は、小手の形が崩れないように、中にタオルやペットボトルを入れてあげて、全部をタオルでくるんであげます」
露木「それから洗濯機に入れますが、ドラム式はあんまりよくないですね。縦型のほうがいいです。
全自動の洗濯機で脱水コースだけで、1分以内で十分です。
長い時間かけてしまうと、無用に繊維をつぶしてしまうので、1分くらいで水がしたたらないくらいになれば十分です」
──すごく勉強になります。
露木「あとは、自然乾燥でも結構早く乾いてしまいます。1日あれば乾いてしまうんじゃないかな」
──干す場所は?
露木「日陰で、できれば扇風機や送風機をあてます。風量があればどんどん乾いていくので。乾いた風をどれだけ当てたかで乾燥は決まるので、どんどん風をあててあげます」
──天日干しがダメな理由はなんですか?
露木「やっぱり紫外線でしょうね、おそらく」
──劣化の原因に?
露木「劣化もそうですけど、色も紫外線によってやけてきますし。
天日干しは何十時間もやらなければ、パッとくらいならいいんでしょうけど、日陰のほうがいいかなって。日陰のほうが無難ですかね」
──自分でもできそうな気がしてきました。
露木「できます、できます。
あと、小手の場合は…脱水やって、後は…そうそう」
小手クリーニングの秘訣は『優しく』
今回は、小手の手入れ方法を解説いただきました。
解説動画はこちら→ https://www.youtube.com/watch?v=zpE9fdiL3tE の前半部分
汚れていると思って、ついついごしごし強い力で擦ったり、長い時間洗浄液につけておかなければならないと思いがちですが、
意外にも短時間で優しく洗うことが秘訣でした。
洗い方・乾かし方以外に、さらにどんな重要なことがあるのでしょうか?
次回も、小手の手入れ方法の続きをお送りします。
お楽しみに!!
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