昭和9年に設立された老舗の総合武道具店、松興堂。世界で活躍するトップアスリートも愛用するファイテン社とコラボ商品を発売しました。松興堂はどのようにして、コラボ商品の開発に至ったのか。ファイテン社にもインタビューをした、製品開発の裏側をお伝えします。(2017年05月)
プロフィール
代表取締役 松本孝仁氏
創業の背景
ー創業の背景を教えてください。
社長「祖父が松勘工業さんで職人をしていて、独立しました。自分で3代目になります」
—松勘工業さんが本家ですか?
社長「そうです。そこから独立したというかたちです。祖父は明治生まれの人で、松勘さんの職人でした。そこの娘さんをくださいと言って結婚し独立した。本家の娘さんをお嫁さんにいただいて独立したんです」
—なるほど。現在の製造拠点はどちらでしょうか?
社長「今は中国ですね。前は渋谷の本社と秋田県にも製造拠点がありました。自分が子どもの頃は職人さんに囲まれて育ち、社員旅行へも行ったりしていましたね。秋田県で工場を立ち上げて30年間ぐらいやっていた」
—秋田に工場を作られる前までは、こちら(渋谷本店)で製造されていたのですか?
社長「今は倉庫になっているけれど、渋谷区本町の方で製造していました。あの辺りは渋谷の下町で、職人さんが多い所です」
—本町って、職人の町なんですね。今でも職人さんは多いんですか?
社長「今でも多いですよ。紐屋さんなど、色々な職人さんや下請け屋さんがいっぱいいた。今はそういう下請け屋さんもいないけれど、大工職人とかそういう職人さんがいっぱいいますね」
—中国に製造拠点を移されたのは、いつ頃なんですか?
社長「約15年近くになるかな。工場の管理は、日本で勉強された韓国人の方です」
—韓国も剣道有段者だけで50万人いるといわれている剣道大国ですよね。いまでも、韓国で剣道は盛んなのでしょうか?
社長「以前よりは下火になってきているかもしれないですね。武道具屋さんも結構つぶれてしまいました。韓国の大きな陸上のスタジアムの回りに武道具屋さんが5~6軒並んでいたのですが、今は1軒あるかないかです」
—日本も有段者だけですと170万人といわれていますけれど、実態はわからないですよね。
全日本武道具協同組合の取組
—松本社長は全日本武道具協同組合の理事長も務められていらっしゃいます。具体的には、何を目的に、どんなきっかけで始まった組織なのでしょうか?
社長「前身は全日本武道具連合会です。昭和43年に武道の発展・業界の地位向上・会員相互の親睦をはかる目的で始まりました」
—情報交換をしましょう、というところから始まったのですか?
社長「そうですね。武道振興に力を注いでおりましたが、任意団体ですと官庁へ色々陳情しに行っても相手にされなくなってきている。それで法人化しようということで、10年前くらいから組織化して協同組合になりました」
—現状の主な運営目的は何でしょうか?
社長「今の大きな目的は安全面ですね。10年前くらいから、先細過ぎる竹刀・ささくれだった竹刀のように粗悪な竹刀が出回り始めました。これではいけないということで”SSP”という規格をつくりました。われわれは安全面が一番大事ですから」
—竹刀の規格が出来てきたので、防具も規格を作るのでしょうか?
社長「規格はあります」
—鹿毛や綿があまり入っていない小手を使って、指を怪我してしまったという話はたまに聞きます。そのような小手でも、規格に準じているのでしょうか?
社長「そこまで細かくは入っていない。一応、全日本剣道連盟(以下、全剣連)で医科学委員会というのがあるんです。組合の武道用具安全推進室から1名出席しているのですが、今は小手の肘や面布団がすごく短いということが問題視されています。危ないということで、規格化に動いている。まずは小手のサイズは何センチ以上とか、小手から始まるのではないでしょうか」
—小手布団、短いのが流行っているんですか?
社長「打突部が短いからね」
—打突部が短いから、一本が上がりにくくなるということですね。
社長「あとは、国際的に剣道を広めようということで、国際剣道連盟さんのもと協力して活動を行っています。全国の道場で使わなくなった防具を、全剣連さんが保管しています。
組合が1年に1回そこの倉庫へ職人さんを連れていき、その場で直せるものは直しています。新品の防具は全剣連が購入していただけるので、新品の防具とこれはいいなという中古品を海外へ送っています」
—海外の方々の剣道を始めるハードルを下げる、ということですね。
社長「海外では防具を持っていない方もいらっしゃるので。国際剣道連盟は毎年1回、7月に埼玉県北本の解脱道場に各国の代表的な選手を50~60人研修で呼ぶんですよ。その時に我々が職人を連れて行き、2日間で簡単な修理方法を教えています」
—選手に教えるんですか?
社長「そうですね。その場ではできないので簡単な応急処置を教えています。指導者の方々が教わって帰って、後進に伝える」
—各国の代表選手が広めていくということですね。
社長「3年に1度の世界大会でも活動しています。組合で職人を連れて行き、選手の防具を修理してあげている」
—代表選手の防具を、その場で修理するのですか?
社長「そうですね、その場で」
—それはすごい。代表選手も感激ですね。
社長「試合に支障が出てはいけないから、手の内を全部代えるというのはなかなか難しい。なので、簡易的に直したりしています。胴の乳革交換・垂紐交換などを行っています」
—剣道の普及活動も目的になっているということですね。
社長「その他には、京都大会で行っています。全剣連さんから毎年我々にブースを提供してくれるので、今年は竹刀職人を派遣竹刀の実演会をしました。その場で削ったり、竹のため作業の実演を行いながら啓蒙活動をしています」
—活動が多岐に渡るのですね。
社長「なんだかんだ色々やっている(笑)」
ファイテン商品の開発背景
—ファイテンさんとのコラボ商品の開発背景について、教えてください。
社長「私はファイテンさんのファンなんです。ファイテンさんのえらいところは、ファイテン商品の愛用者しか広告に使わないこと。トップアスリートが自らファイテン商品を愛用しているからお願いしている。そこは企業として素晴らしい」
—ファイテン道衣を着た剣士の感想はどうですか?
社長「長い稽古にも耐えられる、あとは腕がよく前に出ると言うね。居合の先生も襦袢(じゅばん)を着られると、腕がすっと前にでると言います」
—居合の先生も着られるんですね。
社長「居合の方は、襦袢とともに膝用保護サポーターの愛用者が多いです。剣道衣ですが、道場連盟専務理事の先生が『効かねえよこんなもん。でも着ちゃうんだよな』って。先生、それ効いているということでは?(笑)」
—お認めになられたくないのですね(笑)。
社長「『そうか、なんか選んじゃうんだよな』と仰ってました。ちなみに、この裏地を作るまでに2年間かかりました」
—試行錯誤のすえ、発売に至ったのですね。
社長「化学繊維はべたべたくっついたりしますよね?着づらくなってしまったら、元も子もないから、その点に苦心しました。あとはやはり本物の藍染めをつかい、風合いと柔らかさにこだわって作ることは当社の務めだと思っていました」
—開発に費やされた2年間のことを教えてください。ファイテンさんに試作品を作ってもらった後に社長が着られて、というのを何回か繰り返したんですか?
社長「そうですね。あとは、稽古量が多いお客様にも使用していただき、フィードバックを頂戴しました。見た目も大事ですので、シルバーで行くことになりました」
—効果と着心地を担保するところで、苦心されたんですね。開発のきっかけはなんだったのですか?
社長「たまたまご縁があって。前から自分も、首の調子が悪かったのでファイテン商品を愛用していました。ファイテンは本社が京都ですし、京都大会は毎回来てくれます。4年前の京都大会で製品発表をしました」
—海外の方とかに、特に喜ばれるかもしれないですね。
社長「ただ言葉が通じない(笑)」
—僕らが、がんばって売ります。
社長「じゃあ、京都にも取材きてください」
そして、京都大会へ
ファイテン社、吉宗様
—物販、松興堂さんと一緒に実施されているんですね。
吉宗「そうですね。基本的にはコラボレーションになりますので、販売促進というかたちで弊社も来させてもらうこともあります。剣道以外の、弊社のプロパー商品も一緒に販売させていただいています」
—ファイテンさんは野球やゴルフのイメージが強いですが、剣道はマイナーな武道ですよね。ファイテンさんが取り組んでみようと思われたきっかけはありますか?
吉宗「うちの商品の多くはファイテン技術が搭載されており、心身をリラックス状態へとサポートする効果があるので、どのスポーツでも使えます。メジャースポーツ、マイナースポーツを問わず、あらゆるスポーツでご利用いただけることが弊社の利点です。特定のスポーツや武道に偏らず、色々なところでファイテンを広げていこうというのが弊社のコンセプトです」
—御社の強みは、チタンを水に溶かす技術力ですか?」
吉宗「アクアチタンという技術ですね」
—詳しく教えてください。
吉宗「チタンに限らず、ファイテンの技術で色々な金属を水に溶かすことが出来ます。商品の特性によって使い分けています。メジャーであるのはアクアチタンという素材でオンリーワン技術になります。色々なところで使ってもらっています」
—特許も数多くとられているのですよね。
吉宗「チタンだけではなく、色々な金属を水に溶かすという技術で特許をとっています」
—海外支社も多いですが、売上構成比はやはり国内が1番ですか?」
吉宗「そうですね、国内が圧倒的に多いです。海外でも、拠点があるところは売れてきています。アジア系の方は日本に旅行される際に買われる方が多いです」
—直営店もありますよね。海外でも出されていますか?
吉宗「海外では直営店や代理店などで展開しておりますが、やはり日本で売れることが多いです」
—貴社の社長インタビュー記事を拝見したのですが、リフォームや住空間をつくる事業の売上をあげていきたいという内容をみて驚きました。住にまつわる事業も展開されているのですね。
吉宗「リノベーションのような形で壁面に入れています。弊社の持つファイテンルームでは壁や水、お風呂の水など一室すべてがファイテンの技術で完備されています」
—水もファイテンというのは、流れてくる水すべてにチタンが溶けているということですか?
吉宗「そうですね。水に関してはアクアゴールドという金が溶けているものなど色々あります。浄水器のような形で、ろ過されていく過程でファイテン技術が搭載されたフィルターを通ることで、浄水器の水がファイテンの水になる技術です」
—壁紙には溶かせないんですか?
吉宗「塗料に入れたり、吹きつけたりといったことだと思います」
—リラックス効果を出すのが目的ですか?
吉宗「そうですね。衣食住何でも進めています。ファイテンは「全ては健康を支えるために」をスローガンにあらゆる人の健康をサポートしています」
—プロ野球選手の方が着けて、ファイテンはすごく流行ったという記事を見たことがあります。
吉宗「そうですね。当初から野球選手が多かったですね」
ファイテン × 製品について
—道着の開発までに2年程度かかったとお伺いしたのですが、御社の技術を適用するのが難しかったのでしょうか?
吉宗「弊社は素材を提供します。例えば弊社であれば通常のサポーターはありますが、剣道に特化したサポーターではありません。その辺りを汲み取り、より剣道用に合わせたことで時間がかかりました。スポーツを問わず弊社の技術と合わないというよりは、コラボ先の皆様に合わせた商品を作りあげるのに時間がかかっています」
—ファイテンさんと松興堂さんで剣道製品を作られ始めてどれくらいですか?
吉宗「4年ぐらいですね」
—売れ行きとしては、期待していたレベルと比べていかがですか?
吉宗「そうですね。今まで剣道界では認知されていませんでしたが、道着・袴やサポーター商品も認知度が上がってきています。毎年京都大会は出させていただき、去年も買われた方がいらしてくださったりしています。売上もそうですが、認知度に関しても上がってきています」
吉宗「この道着に関しては、裏地にアクアチタンの素材が入っています」
—このシルバーの部分ですか?
吉宗「そうです。例えばテープですと貼った部分を中心にリラックスするのですが、道着に関しては全体にテープが貼られている状態になるので、全体にアクアチタンの効果が出ます。体に触れる面積が増えれば増える程、リラックス効果が高まりますのでとても効果が感じやすい商品です。後はおっしゃっていただきましたが、着心地や重さ・素材感は松興堂さんと打ち合わせをして作りました」
—武道の専門知識は、松興堂さんが提供したんですね。
吉宗「弊社には剣道や居合の技術がないため、松興堂さんと話をしながら作っています。弊社は健康・スポーツ製造のメーカーですので、細かいお客さんの声は聞き辛いですが、松興堂さんから吸い上げていただいています。今後も剣道の方々に喜んでいただけるような商品開発を松興堂さんとやっていきます」
ー両者の知見が凝縮された商品であることがわかりました。本日は、ありがとうございました。
今回インタビューを受けていただいた松興堂さんの商品ページはこちら!
インタビュアー
◎Bushizo株式会社 代表取締役 上島 郷
1987年生まれ仙台出身。仙台高校剣道部時代に佐藤充伸氏に師事、インターハイベスト8。
大学卒業後、全米で200店舗展開する外食チェーン店の事業開発責任者を務める。外資インターネット広告運用企業での営業職、株式会社イノーバで営業部・社長室リーダーを経て、2017年1月にBushizo株式会社を設立。
◎Bushizo株式会社 取締役 工藤優介
1984年生まれ北海道出身。 立教大学法学部卒業。在学中にはフリーマガジンの創刊、アパレルブランドのマーケティング支援を携わる。2008年ヤフー株式会社へ入社。検索連動型広告・ディスプレイ広告などの広告商品の営業に従事。2017年1月にBushizo株式会社を設立。 6歳から剣道を始め現在に至る。